4話 代表キャンプ開始
父さん、母さん、妹……そして絢音。
「ついに来たぞ……日本代表キャンプ」
U22の親善試合に向け千葉の某所にてキャンプが開かれた。
今日から俺は、胸に日の丸を背負って俺は戦うんだ。
「……来たな。高東の16番」
背後から俺の影が消えるくらいにデカい身体が近づいて来る。
この覇気は……。
「か、金川……流心、さん」
金川流心はN3の小田原ユナイテッドに期限付き移籍している21歳のFW。
身長192cmでボディービルダーよりも厚い筋肉をしたラグビー選手のような身体つきで、いつ見てもフィジカルで勝てる気がしないが、俺は金川流心にあの天皇杯で勝った事がある。
「……久しぶり」
金川はぶっとい腕を俺の前に差し出した。
握手……ってことか。
俺は恐る恐る金川と握手を交わした。
「お、お久しぶり、です」
あの天皇杯の試合の時は、絢音の想い人が金川だと勘違いしていたためピッチの上でバチバチだったが、今は単純に日本サッカー期待の至宝で高卒でイングランド1部に入った大先輩だから腰が低くなる。
「代表は初めてか?」
「は、はい! ずっと無名なもので」
「……分かった。軽く案内しよう」
「あ、ありがとうございます! 金川さん!」
「……ああ」
金川さんに案内されながらまずは併設のホテルまで移動する。
ホテルの前には数多くの報道陣がいて、金川流心が現れるとすぐに記者たちが群がってくる。
「金川選手、サカプロの加藤です! 今回のU22代表は間違いなくA代表に繋がると思いますが、お気持ちお聞かせください」
「……いつも通りやるだけなんで」
取材慣れしてるだけあってクールだなぁ。
「じゃあ次に槇島選手!」
「お、俺すか……」
サッカー専門誌『サッカープロセス』(通称サカプロ)の男性記者が、今度は俺に質問を投げかける。
「最年少18歳での選出となりましたが、意気込みお願いします!」
い、意気込みと言われても。
「とりあえず、ゴール決めてアピールしたいです」
ザ・無難な回答をして俺は金川さんの後ろをついて行く。
「あのー! もう一つ質問いいですか!」
今度は元気な声の若い女性記者が
「週刊レディ.comの西条です! 槇島選手は天皇杯の活躍が話題となりSNSでバズって、その甘いマスクでファンを増やしていますが、ズバリ彼女とか居るんですか!」
「え、えぇ……」
やっべーこの手の質問も来るのか。
俺がオロオロしていると、金川さんが俺の首根っこを掴んだ。
「申し訳ないが、俺たちは急いでる」
そう言って俺のジャージを引っ張り、ホテルに入った。
「ありがとうございます、金川さん」
「あまり余計なことは喋らない方がいい。特に女性関係はな」
「……き、肝に銘じます」
ホテルの部屋に荷物を置いた後、練習着に着替えてスパイクをスーツケースから取り出す。
代表の練習着……着てるだけでアガるな。
部屋にあった立ち鏡で写真を撮り、絢音に送信する。
いつもなら数秒で既読が付くけど……今日は担当アイドルと初顔合わせだから忙しいよな。
俺がホテルの部屋から出ると、部屋の前ではデカい人の影が二つあった。
一つは金川さんだけど、もう一つは——。
「お、マキちゃん来たね」
「チャン先輩!」
同じ高東大学の先輩で、2メートルの長身でビッグセーブを連発する高東の守護神。
「limeで寝坊するって言ってたから、先に来たんですけど」
「意外と間に合っちゃってさ! マキちゃん、同じFWとして早速リュウちゃんと友達になったんだね?」
「ま、まあ……」
友達、ではないんだけど。
その後はチャン先輩、金川さんと一緒にクラブハウスの中をグルっと歩き回った。
日本代表のクラブハウスの中には、ロッカールームや会議室、トレーニングルームなども充実していた。
「もう伝えられているかもしれないが、今から俺たちはこの施設で7日間のトレーニングと国際親善試合2試合を行う。相手は欧州勢のベルギーとオーストリア。どちらも強豪だ」
金川さんは懇切丁寧に説明してくれる。
「ベルギーにはイングランド1部で活躍する21歳のDFエレク・ラザード。そしてオーストリアには……オーストリアサッカーで"紙の男"と称される天才・マティアスシンデラーの生まれ変わりと称された19歳の天才・フェルラン・メルツがいる」
もちろん、どちらの選手も俺は知っている。
エレク・ラザードは世代トップクラスの実力者でイングランドリーグのネクストブレイク筆頭格だ。
そしてフェルラン・メルツも18歳にしてオーストリアのプロリーグで30得点した至宝。金髪碧眼の超イケメン。
そんな世界クラスの逸材と、ついこの前まで合コンで出会った国宝級の元アイドルとイチャラブしてた俺が戦うことになるなんて……ある意味凄いな。
「エレク・ラザードはイングランドで対峙したことがあるが……あれはキミでも突破できないぞ」
「そ、そりゃそうでしょ。大学サッカーとイングランドリーグじゃ流石に比べるのは酷ですし」
でも俺は、ここで世界レベルを知ることができる。
絢音をいつか……海外に連れて行くためにも、今の自分がどこまで通用するか知りたい。
「ボクはマキちゃんならエレクを越えられると思うけどなぁ」
「チャン先輩……」
「天野杯の時みたいなターンとかすれば抜けるでしょ」
あ、あのベルバトフターンは……前日絢音が見せてくれた映像をたまたま真似できただけなんだけど。
「さ、そろそろ練習行こうよマキちゃん!」
「行くぞ、マキ」
「は、はいっ!」
俺は二人の先輩の後ろをついて行くようにグラウンドを出たのだが。
ん? lime?
『絢音:祐太郎。今晩電話でお説教をします』
えぇ……。
——————
ついに明日!書籍版1巻が発売です!
人数合わせで合コンください!と書店で言えば可愛い絢音の表紙が出てくると思う!笑
詳しい情報はこちらの近況ノートから
→https://kakuyomu.jp/users/seiyahoshino/news/16817330661971331645
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