16話 本当の戦いまであと2週間


 天皇杯2回戦が始まった。

 変わらずベンチスタートの俺は、いつもよりもリラックスした様子で試合を観れている。


 敵もプロをジャイキリして上がって来た社会人チーム。

 だが、実力はプロ内定者を擁する高東の方が上だ。


 その下馬評通りに試合が進み、阿崎の2アシストもあり、前半だけで5対0と圧勝ムードの試合展開になった。


 これなら当然、俺の出番もあるだろうと思っていたが、後半に入る前に高東は3枚替えして、残りの2枚は使うことなく試合は高東の勝利した。


 試合後、マネージャーの片付けを手伝っていると監督に呼び出される。


「槇島祐太郎」

「は、はいっ」


 監督は相変わらず無表情で、俺を見下ろしながら睨んで来る。


「今日お前を出さなかった理由が分かるか」

「それは……実力の、問題ですか?」

「違う」

「じゃあ、少し体重が重くなったからとか」

「違う」

「……あの、すみません。分かんないです」


 俺がそう答えると、監督は少し微笑み俺に背中を向ける。


「3回戦が東京フロンティアに決まった」


 ドクン、と心臓が高鳴る。


「会場は東京フロンティアのホームグラウンド、相手には星神のレジェンド、来田真琴と岸原がいる……。あの岸原に全力のお前をぶつけるために、今日は使わなかった。かつてあの岸原が最高傑作と自慢していたお前をな」

「……監督」

「準備を怠るな。お前の人生が変わる一日になる」


 俺の人生が変わる一日……。


「その非凡なゴールへの嗅覚を見せつけろ。お前はこのまま大学リーグで終わる選手じゃない」

「……はいっ」


 最初は監督から叱られると思ってたけど、逆に勇気付けられたような気がする。

 最高傑作……いや、それは過大評価だ。


 俺が不甲斐なかったからあの3年間を無駄にして、岸原監督は辞めることに……。


 実家に帰った時に父さんからも言われたが、俺の才能を信じてくれた岸原監督に恩返しするなら、ゴールしか……ない。


「ゴール、しか」


 ✳︎✳︎


 試合後、俺は絢音と一緒にマンションへ帰った。

 試合に出れなかった俺を気遣ってくれているのか、絢音は特に何も言わずに俺の手を握っていてくれた。

 最近の絢音は、前よりもお姉さんっぽくなったような気がする。


 ついこの前までなら、『元気を出すならパンケーキ!』って言いそうなものだったが。


「今日は、試合出れなくて残念だったね」

「ほんとごめんな絢音。せっかく観に来てくれたのに」

「いいっていいって。ベンチでうずうずしてる祐太郎観てるのも面白かったし」

「そんな所観るなよ!」


 絢音は笑いながら冷蔵庫の方に行くと、コップ2つと麦茶を持って来て注いでくれた。


「ねえ祐太郎。試合が終わったら、話したい事があるの」

「話したい、事?」

「うん! あたしたちの将来にも関わる事だから、楽しみにしてて」

「……お、おう。楽しみにしてる」


 将来……か。


「俺も……勝ったらお前に言いたい事ある」

「へぇ……この前は告白だったから、今度はプロポーズとか?」

「早すぎるだろ。ちゃんとプロになって、年俸2000万くらいの選手にになってから——」

「やーだー! 待てないー!」

「お、おい、駄々こねるなって」


 俺は絢音を宥めながら、実は図星だったのを上手く隠すのだった。

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