湾岸道路

帆尊歩

第1話  あの日まで湾岸は大好きだった

 湾岸道路って知っていますか。

首都高速の一部なんですけれど一番新しくて、一番景色がいいんです。

首都高速なのに三車線もあって、まるで東名や中央高速のようです。

湾岸は神奈川の横羽線が終わったところから、京葉道路までの三十六キロを言います。

東京の海辺を走る湾岸道路は夜になると東京の夜景が綺麗で、まるで未来都市のようでした。

家からディズニ―ランドに行くときは、必ずこの湾岸道路を通りました。

でないとものすごい遠回りになります。

私は湾岸道路が大好きでした。

でもあの日以来通っていません。

そう、あの日


あれからもう五年もたっているのに。


長く病院にいるとよく見る光景があります。

ベッドを取り囲み、沢山の機械や管につながれた人を見つめながら、みんなが涙をこぼしている。

病棟のロビーにある公衆電話で、悲痛な声でいくつもの場所に電話をかけている女の人、電話を切っては掛け、切っては掛けの繰り返し、そしてその言葉はみんな一緒なんです。

「今夜が危ないそうなので。来ていただけませんか」あのころは携帯も珍しいころなので、余計辛く感じました。

五年前のあの日、きっと私の両親はあの女の人と一緒だったんだなと思います。

「アツコがもう、だめそうなんです。来ていただけますか」絞り出すような声で、父や母はここで電話をしていたことでしょう。


私は最も悲しいことは、死ぬことだと思っていました。

死にさえしなければその悲しみはたいしたことはない。

生きてさえいればと思っていました。

でも死ぬより悲しいことがあることを、あの時私は初めて知ったのでした。


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