第5話 少年、決意する Aパート~緊急手術~
「勇ッ、勇ッ!」
「邪魔だハツネッ、おい医療班、バイタルは!?」
「17! 危険領域です!」
「心臓マッサージ開始ッ! 酸素吸入も忘れんなッ! 梶野ッ、手術室の準備はッ!」
「できていますッ! 早く運んで下さいッ!」
「副司令ッ! 出血が止まりませんッ!」
「気合で持たせろ医療班ッ! まだ高校生のガキなんだッ、絶対に死なすなよッ!」
そうやって運ばれていく彼の姿を、私は見送ることしかできなかった。
私は、その場で膝を突いた。
なんて私は愚かだったのだろう。
この戦いが、壮絶なものになるとわかっていた。
それで、私は勇を巻き込んでしまった。
ただの少年である、勇を……。
「……大丈夫、ハツネ」
「……」
「とりあえず、ベンチに座りなさい」
そう言って司令は私をベンチへ座るよう促した。
そして座った瞬間、私また頭を大きく下げた。
「大丈夫、ウチの医者は折り紙付きよ。きっとすぐによくなるわ」
「……はい」
「……あなたの気持ち、話してみなさい。少しは楽になるかもしれないわよ?」
そう言われてしばらく静寂が流れる。すると、私は自然と口を開いた。
「……私、わかってなかった。この戦いがこんなに危険で、危なくて……しかも、勇の命まで危険に晒してただなんて……」
「……それでも、あなたが選んだ道でしょう?」
「わかってるッ! ……でも、わかってなかった……彼を、殺そうしてただなんて……私……私……」
そう言って私はまた頭を抱える。
その様子をしばらく観察した司令は、結局私の元から去っていった。
そして、それと入れ替わるように、一人の女性がやってくる。
リアナだ。
「……気は済んだ?」
「……」
私は無言のまま彼女の言葉を聞き流す。
バチンッ!
瞬間、私の顔に彼女のビンタが飛んできた。
「~~ッ! かったぁ……」
私にはダメージがなかった。いくら獣人星の達人とはいえ、きちんとした技でない攻撃が金属生体である私の肌にダメージを与えられるわけがない。逆にビンタをした彼女の方が痛そうにしてる。
「ふん……人間体でこんな硬かったら、そりゃあれだけダメージ喰らっても戦おうとするよね……ダーリンの気持ちを無視してでも」
「ッ!」
バチンッ!
今度は私の方がリアナにビンタをした。人間体とはいえ身体が生体金属で構成されている私の張り手を受けたリアナは大きく吹き飛ばされた。頬が紅く腫れている。けれど、痛そうな素振りは見せなかった。むしろ、何故か私の心が痛かった。
「何よ、ちゃんと感情あるじゃない……心まで金属の冷血星人だと思ってた」
「……心外ですね。私は普通の生物ですよ。ただ生体細胞が金属で構成されているというだけの――」
「なら、どうしてダーリンの気持ちを理解できなかったの?」
「ッ!」
私は、その言葉に息を詰まらせた。
「本当は敵わないってわかってたんでしょう? あのビットを倒せただけでも御の字なのよ。でもあんたはチャンスに囚われ過ぎて無茶をし過ぎたの。相手がむしろその瞬間を狙ってることにすら気づかずに無理やり突っ込んで、ダーリンが撤退しようって提案しても無理を通して、それでダーリンを……」
「それ以上言うなッ!」
私はいつの間にか叫んでいた。
いつにない強い口調を、リアナに叩きつけていた。
「それ以上……言わないで下さい」
そして、気づいたら言葉は尻すぼみに弱くなっていた。
「……もう、この闘いを止めたらどう?」
しばらくして、リアナはそう呟いた。
「せめて無茶はしないでよ。撃退ぐらいなら何とか出来るし、それで地球の平和も守れる。けれど……それ以上のことしようとすると、今回みたいなことが起きちゃうわ」
言葉をそれで切り、彼女は私に背中を向けた。
「……これ以上私には何も言えない」
そう言ってリアナは去っていこうとする。
「だって私は、所詮ダーリンの愛人に過ぎないんだから」
その言葉には……私への恨み節のような気持ちがこもっているような気がした。
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