第2話Cパート~長手足の魔導師・ケルタ~

 ブーッ、ブーッ!

「なんだ!?」

 突然鳴り響く警報に、副司令が反応する。

 それと同時に、フィギュアを優しくおき目の前のコンソールへ集中しだした小川さんが、声を張り上げる。

「ラスタ・レルラです! 数は1……場所は、御影市郊外、山部ッ!」

「……判断が早いわね。さすが慣れてる。副司令、自衛隊に出動要請。こっちはそのサポートに入るわよ」

「ッ! あ、あの、僕たちは……」

「ダメよ。あなたたちは控室で待機してなさい」

「え……ど、どうして!?」

「忘れたの? あんたたちは戦ったばかりなのよ……そう何度も出撃させられないわ」

「そんな……」

「安心なさい。一応大人たちだけでもやれるってとこ、見せてあげるわ。さ、ハツネ。この子を連れて控室へ行きなさい」

「――了解です」

 そう言って僕たちは司令室から追い出される。

 確かに司令さんの言う通りとはいえ、こんな時に何も出来ないなんて……そんなことを考えていたら、僕らはいつの間にか5分以上歩いてることに気づいた。

「あの、氷室さん。控室ってそんなに遠いの?」

 そう聞くと氷室さんは立ち止まり……こちらを振り向いて呟く。

「――勇。行きましょう」

「え……ど、どこに?」

「ラスタ・レルラの下にです」

「え……!?」

 その言葉に驚愕する。

「で、でも司令さんは控室にって……そ、それに、そんなことしたら君がまた傷ついて……ッ!」

「――勇ッ」

 その言葉に、僕は体を震わせた。

 いつもより語気の強い言葉。その言葉に、僕は思わずたじろいでしまう。

「――行きましょう。後、私のことはハツネで大丈夫です」

 さっきよりもやや穏やかに……けれど、確かに意思のこもった言葉に、僕は静かに頷くしかなかった。


 ……


 カッ……!

 御影市近郊、夕方。街の近くの山辺に、突然ラスタ・レルラは姿を現した。

 手足が長く、細身の身体をした約十数mの巨人。その突然現れた巨体に、鳥たちが一斉にざわめき出す。

「さぁ~て……メイス様の言う通り、まずはひと暴れしますかねぇ……」

 そう言ってラスタ・レルラは山を下り始める。

 瞬間……銀色の光が空から舞い降りた。

「む……っ!?」

 その光から現れたのは……レグルス・フィーネだった。

「ラスタ・レルラ……そこまでだッ! 街は破壊させないッ!」

「これはこれは……思ったより早かったですねぇ……これは早く帰れそうだッ!」

 そう言った瞬間、ラスタ・レルラは襲い掛かってきた。

 細身からは考えられない素早いタックルに、しかしレグルス・フィーネはしっかりと回避をする。

 だが……。

「甘ァいッ!」

「な……っ!」

 瞬間、敵の枝のように細い脚が……伸びた。

 まるで鞭のように撓る脚は、勢いよく伸びながらそのまま僕らへ向かって叩きつけられるッ!

 ドガァッ!

「がぁ……ッ!?」

 胴体に思わぬ攻撃を被弾してしまった僕たちは、思わず後ろへ後退してしまう。

 その隙を、敵は見逃さなかった。

「さぁ、行きますよォッ!」

「ッ、今度は腕が伸びて……ぐっ!」

 まるで投げ縄のように飛んできた相手の腕。その長い軌道を避けられず、レグルス・フィーネは敵の伸びた腕の中へ捕らえられてしまう。しっかりと僕らの身体を捉えたラスタ・レルラは、そのまま僕たちに背を向け……まるで一本背負いするようにレグルス・フィーネを宙へ投げ出すッ!

「な……ッ!? うわぁああああッ!」

 ドガァアアアンッ!

 夜の闇が覆う空へ放物線を描きながら僕らは地面へ強くたたきつけられる。辛うじて意識を保った僕らはどうにか身体を縛る縄から逃げようとするが、翼ごと絡め取られてしまったため抵抗することが出来ない……ッ!

「ふふふ……まだまだぁッ!」

 そしてラスタ・レルラは伸びた手を高速で巻き取る。その勢いに乗ってまるで駒のように回転した僕ら。その場で周囲を何回転もして、視界がままならない。そんな僕らの元へ、敵は一気に距離を詰める。

「しまっ……」

 瞬間、僕の脳内に反撃の対応が脳裏をよぎる。ハツネさんの中にインプットされた体術データだ。

「くっ……はぁッ!」

 そしてその反射に任せるがまま、僕らはラスタ・レルラの攻撃を受け止め、反撃のカウンターを放つッ!

 ドゴォォォンッ!

 ……だが、敵はその攻撃を、平然と受け止めていた。

「悪くはありませんが……ちょっと弱かったですねぇ」

「なっ……!?」

「ひょほぉッ! 隙だらけですよぉッ!」

「ッ! しまっ……」

 だが、僕らが相手の動きを捉えようとした時……既に相手の振り上げた脚は、僕らの胴体へ迫っていた。

 ドゴォオオオオッ!

「ぐあぁぁぁッ!」

 痛恨の一撃。

 ラスタ・レルラの攻撃は僕らの腹部へと直撃し……身体から金属の軋みを上げながら、空中へ大きく吹き飛ばされてしまった。

 山肌を抉るように、地面へ大きくたたきつけられたレグルス・フィーネ。灰色の土が見える地面の上に、ラスタ・レルラは余裕あり気に立つ。

「いやねぇ、悪くはないんですよぉ? ですけどねぇ……軽すぎます。私、この細さですけど体は隊長にしっかり鍛えられてましてねぇ……その程度の攻撃、少し痛いぐらいで何ともないですよぉ?」

 その言葉に衝撃を受ける。

 確かに前のラスタ・レルラを倒した時ほどの威力はなかった。けれど、完全に隙を突いた一撃だったはずだ。なのに、それすら決定打にならないなんて……。

「もっとも……私、今地球に来てる部隊の中では一番弱いんですよねぇ。だからもし隊長クラスであれば当たることもなかったでしょうよ」

 そしてその言葉にとどめを刺されれ、僕は立ち上がることすらできなくなっていた。

 瞬間、脳内にアラームが鳴り響く。

 僕と繋がったレグルス・フィーネ……ハツネさんの身体が、悲鳴を上げているのだ。

「――ッ」

 だが、それでもレグルス・フィーネは立ち上がろうとする。

 ハツネさんは、まだ諦めていないようだった。

「ハツネさん、もう無理だ……! 撤退しよう……これ以上は君が傷つくだけだよ……ッ!」

「ダメですッ!!!」

 脳の回路に、彼女の叫びが直接響く。

「私はコアさえ破壊されなければ自動的に修復されます。でも、街は違う……市民や建物に被害が出たら、もう元には戻らない……ッ!」

「でも、それで君が傷ついたら……ッ」

「それでもッ!!!」

 瞬間、僕の言葉はまた途切れる。

「私は、ラスタ・レルラに勝ちたい……」

 そして続いて漏れた彼女の言葉に、僕は耳を傾ける。

「あんな卑劣な侵略者たちの暴力を、何もせず見てるだけなんて嫌なんです……」

 その言葉には、今までの無機質な言葉とは違う感情がこもっていて……。

「だから、私は守る……」

 戦闘中だというのに、姿の見えない彼女の横顔に……

「もう二度と、あの侵略者たちに何も奪われないように……ッ!」

 ……いつの間にか、見惚れてしまっていた。

「……わかった」

 そして、僕は覚悟を決めた。

「君がそういうなら、僕も覚悟を決める……いいんだね?」

「――はい。この星を守って死ぬなら、本望です」

 その言葉に応えるように、僕はボロボロになった機体で構えを取る。

「……行くよ、ハツネさん」

「はい――勇、行きましょう」

 そう言って僕らは……最後の特攻へと足を踏み出したッ!

「はぁああああッ!」

 地面を強く蹴って前へ踏み出し、両手を前に出す。

 相手も同様に手を出して迎え、僕らは相手と組み合いになった。

 身体のベアリングが軋む。今は相手と力は拮抗している。だが、その先の手が見えない。相手の構えに隙は見えず、必勝の道は闇の中だ。

 それでも、前に踏み出さなきゃいけない。

 彼女が……ハツネさんが守りたいものを、守るためには……ッ!

「ひょほぉッ!」

 ガガガ……ッ!

 だが、無情にも僕らは相手の力に押し負け……体を弾かれた隙に、胴体へ大きな隙ができてしまう。

 その隙を見逃すほど……敵も甘くなかった。

「ふん、その程度ですか。失望しましたね」

 感情がこもってないその言葉とともに……必殺の一撃が、僕らに向かって振り下ろされた。

「くぅ……ッ!」

 もう、無理だ。

 ……そう思った瞬間だった。

 シュバァッ!

「ッ!!!」

 ガキィイイインッ!!!

「なッ……!?」

 次の瞬間、ラスタ・レルラは大きく後ろへ後退した。

 僕は何が起こったのかわからなかった……いや、正確に言えば、僕の腕に装備された『それ』が……何故相手の攻撃を弾いたのかわからなかった。

「――ッ! これは――」

 舞い起こった砂埃が落ち、装備された武器の正体が見えてくる。

 シュゥウウウウウ……ッ!

 それは、まるで悪魔に生えてるようなもののように、胴体部分が大きな捻れを持った……曲槍だった。

「や、槍……? これは……ッ!」

 ガガガガガガガガッ!

 その瞬間だった。重厚な銃弾が発射される音が鳴り響く。耳を劈く爆発音とともに響くいくつもの撃鉄の音は、まさにガトリング。

 見るとそこには、空中から鳥のような機械に運ばれたガトリング車がある。

「――あれは……」

 すると今度は高速で飛ぶ何かがラスタ・レルラの周囲を旋回する。高速で風を切りながら飛ぶその機体にラスタ・レルラはうっとおし気にするが、速すぎてその手で捉えることができない。

「も、もしかして……ッ!」 

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