第2話Dパート~白・銀・降・臨~
一方、司令部では……
「司令、本当にいいんですか……?」
「いいんじゃない? あの子たちがやるって言ったんなら、それに任せるしかないでしょう?」
「でも、また国会がうるさく……」
「あーうっさい。そんなこと後で考えればいいのよ……小川、各機体のコンディションは?」
「良好……突貫工事にしては中々ですよ。なんとか行けまーす」
「よっしゃ、それじゃ行くわよ……全員、第1次戦闘態勢ッ!」
瞬間、司令部にいる全員が、目の前の画面へとしっかりと向かい合う。
「ラスタ・レルラ……あんたらに、地球人を舐めたツケを払わせてあげるわ……」
そして司令はペロリ……と唇を舐めると、精悍な声で司令室の空気を貫いた。
「午後4:46、機密解除! フルメタルクローズ、ウェアリング承認!」
その言葉に息を飲んだ梶野は、しかしすぐにコンソールへと向かい合い、必要な情報を入力していく。
「了解! レグルス・フィーネ・インメタルドレス承認……アンド、スクランブルドレスアーップッ!」
そして承認ボタンのハッチを開ける手間を惜しんだ梶野は……
バリイィンッ!
そのガラスハッチごと、最終承認ボタンを奥へと押し込んだ。
砕けたガラスの破片が、コンソールの上を舞う。
……
瞬間、機体のリミッターが解除されたことを、僕たちも確認する。
「ハツネさん……ッ!」
「はい、大丈夫です」
ハツネさんの無機質な声が脳に響く。それと同時に、もうこの気持ちを邪魔するものはないことを悟る。
「よし、それじゃ行くよ……」
そして僕は、叫ぶ。
この機体たちを繋ぐ……命令の言葉を。
「レグルス……イン、エナジードレッサーッ!」
その言葉と同時に、レグルス・フィーネの身体を光が包む。
「むぅ……ッ!?」
その衝撃波に、ラスタ・レルラは押し返される。
だが、彼女の周りを舞うマシンたちは……彼女の周囲に、それぞれ陣取っていった。
「ウオォオオオオオオッ!」
そして僕らの叫び声と同時に、『合体』が始まる……。
「ドラスター、リコンストラクト!」
その声と共に、ガトリング音が消え去りそれと同時に二つに分離、ガトリング側面からボディが伸び、発射面を覆う。そしてできたのは巨大な爪。一本一本がまるで太刀のようなフォルムへと変化する。
「ドラゴンアーム、アタッチメント!」
それがガトリングの基部ごとレグルス・フィーナの腕へ被さる。そしてドラスターの内面で腕を固定しプログラムを連結、本体と接続されたドラスターの爪が軋みを上げて動き出す。
「ドラブート、リコンストラクト!」
次は脚だ。発射部の上部についていたウイングが展開し、足爪のように変形する、さらに加速していたブースター部分とは反対側のハッチが開き、そこにレグルス・フィーナの細い脚が収まっていく。
「ドラゴンブーツ、アタッチメント!」
そして腕同様鋼が軋みを上げて脚部を固定していく。本体と内部ネットワークで繋がった足の爪が撓りを上げ、脚部裏からブースターの風が吹き出す。
「ドラフェザー、リコンストラクト!
空を舞っていた鳥形のマシンが宙返りする。そしてそのままレグルス・フィーナの身体へと接近し、裏返す翼が彼女の胸部まで迫ってくる。
「ドラゴンドレス、アタッチメント!」
その翼はそのまま彼女の身体を包む。そして翼を交差させたまま彼女の身体と接続し、まるでドレスのような形となる。接続されたボディが、彼女の括れた腰と一体化する。
「ドラピア、リコンストラクト!」
そして彼女が武器として使っていた双構槍。それが羊皮紙を開くように展開し、レグルス・フィーナの頭へと近づいていく。
「ドラゴンホーン、アタッチメント!」
そこからまるで彼女の頭を覆うように纏われていくドラピア。先ほど敵を穿っていた曲槍が彼女の頭部へと装着され……まるで角のようにその姿を勇ましく顕す。
全身からみなぎるパワー。鉄の血管を脈打たせるその力の奔流のまま、僕らは体を動かす。
そして叫ぶ。
新たなる鋼衣をまとった……彼女の名を。
「白・銀・降・臨ッ……竜女王ッ、テラレグルスッ!!!」
その言葉と同時に、衝撃波が周囲に疾る。
雷のごとき速度で大気を震わすその空震に……ラスタ・レルラは思わず戦慄を覚えた。
「鋼衣ですと! ……まさか、地球人が作ったのですか!?」
その言葉に応えるがごとく、僕らは構えを取った。
その姿に、ラスタ・レルラは一瞬たじろぐ。
「……いいでしょう! メイス隊副隊長、ケルタッ! 皇帝陛下の部下である意地を見せてあげます!」
だがすぐに体勢を立て直し、ラスタ・レルラはテラレグルスへ向かって両手を勢いよく伸ばしたッ!
一方でテラレグルスを捉えようとしながら、また一方はムチのようにしなりながら襲ってくる!
「……ここだね」
けど、僕は冷静だった。頭脳に繋がれたハツネの本能が、逃げ道となるルートを複数発見する。
そして僕はその中から真正面の……もっとも難しい道を選び取るッ!
「シルバークローッ!」
そう言って僕は爪を立てる。
それと同時に、テラレグルスの右手に伸びた指にも稲妻が走るッ!
シュバァアアアンッ!
「なッ……!?」
テラレグルスを捉えようと伸びていた腕が、一瞬で粉みじんになる。さらにそれと同時に前へと飛び出し……
「ぐっ……!」
敵へ鋭く爪を突き立てるッ!
「はぁあああッ!!!」
「ッ!? ぐぅうう……ッ!」
そして相手のガードごと、目の前にいたラスタ・レルラを吹き飛ばしたッ!
ズジャシャアアアアァァッ!
「ぐおぉ……ッ! な、なんて威力……ですがッ!」
瞬間、テラレグルスの後ろから伸びた腕が、僕らの胸へ向かって真っすぐに飛び出すッ!
「はっはぁッ! これで終わり……え?」
その時、僕らはジャンプした。
全身をねじりその勢いで飛ぶ、大重量をものともしない華麗な舞……。
それはまるで、優雅なアイススケートのダンスのように美しかった。
そしてその過ぎ去り際に、こちらへ伸びてきた腕へ鋼爪による連撃を加え、敵のもう片方の腕までも細切れにする。
シュババババァァァッ!!
「ぐああぁぁぁッ!!!」
両手を失ったラスタ・レルラは、恐れ慄いた顔となる。
「そんな……まさか、そんなことが……ッ!」
「……行くよ、ハツネさん」
「はい、勇」
そういうとテラレグルスは両手を前に差し出し、指を突き出して掌で円を作る。
瞬間……ドラゴンアーム同士が接続され、合わせた掌が高速回転し始めた。
「なっ……!?」
ギュルルルルルルルゥ……ッ!!
高速回転する掌たちを前に構え、テラレグルスは地面を強く踏みしめる。
「ぐっ……!」
瞬間、敵が後退のため距離を開こうとする。
その間に出来た一瞬の隙を……テラレグルスの感覚器と接続された僕らが、見逃すはずがなかった。
「ここだあぁッ!!!」
カチッ、ブゥウウウゥウウゥウウウッ!!
僕らは脚部のブースターを点火する。そして両掌に力を込め……渾身の力を以て、足を前へ踏み出した。
「はぁああああああああッ!!!」
ブースターによって推力を得たテラレグルスは、まるで矢のように加速する。
そして、逃げるラスタ・レルラが目の前に迫った瞬間、僕らはまるでドリルのように高速回転する両掌を正面へ突き出した。
空気と激しく摩擦するテラレグルスの爪が……風を切り、白銀の閃光と化すッ!
ギュィイイイイイイイイイイイイインッ!!!
「螺・旋・疾・爪……レグルス・スパイラアアァァァルッ!!!」
ドガアァァァァァァァッ!!!
「ぐあぁ……ッ!?」
「うおぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」
螺旋を描くテラレグルスの爪は破砕音を立てながらラスタ・レルラの胸を貫き……不気味な光を放つ中心部のコアごと、うなりを上げて破壊するッ!
「ぐっ……ぐあぁぁぁぁぁぁッ!!!」
生命活動の根本を断たれたラスタ・レルラはコアから中心に崩壊し……最後には、その巨大な全身が、光と化した。
ドゥッ……ッッガアアァアアァアァァァァンッ!!!
「……」
その光を……俺たちは言葉を放たず眺めていた。
「……やった、んだよね?」
「――はい、お疲れ様でした」
「ハツネさんもお疲れ様……体は、大丈夫?」
「――はい、思ったより辛くありません。とはいえ、鋼衣はボロボロになってしまいましたが」
はは、と笑う。
鋼のドレスは所々に裂傷が生まれ、その隙間からバチッ、バチッ、と電流が走っている。
これは怒られるかもしれないな……そう思いながらも、僕はつぶやく。
「……また、戦いの時になったらよろしくね」
「――はい。一緒に、この星を守りましょう」
「……うん」
そう言って、互いに心の中で拳を突き合わせる。
何故かその向こうで…… ハツネさんが笑っている気がした。
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