学年一の美少女からの告白を断ってしまった

香山ハル

第1話 最悪の偶然


「市本くん、あなたが好きよ」


 誰もいない夕日が差し込む放課後の教室で、そうあっさり告げられた言葉は、俺の頭の中で何度も反芻された。


 唐突な三枝綾奈さえぐさあやなからの告白。

 それは学年一の美少女からの告白を意味していた。


 俺の頭は息をすることを忘れほどに混乱し、しばらくの沈黙が流れる。


 そして、ようやく俺はようやく言葉を口にした──




 〜〜〜



 あれから翌日、自分に起きた出来事が頭の中を隙間なく埋め尽くし、何にも集中できない1日を過ごしていた。


 先生の話は右から左に流れ、何の授業を受けたかを思い出せるかさえ怪しい。


 そんな俺を現実に引き戻してくれたのは今日の最後の授業終了を告げる聴き慣れたチャイムだった。


 チャイムを合図に、クラスメイトたちは先ほどの退屈な授業で死んでいた顔を吹き返し、どこに遊びに行くか話し合いを始めている。

 俺はそれには混ざらず、慣れた手つきで帰り支度を終えていく。


「ちょっと待って市本いちもとくん。悪いんだけどこれ運ぶの手伝ってくれる?」


 教室を出る直前、さっきまでこのクラスで国語の授業をしていた岩田先生が俺に声をかけた。先生が指をさしているのは今日課題として回収された問題集。このクラスの人数は合計で40名なので、全員分合わせるとかなりの量になる。おそらく1人では待ちきれなかったのだろう。


「多分もう帰るんでしょう?じゃあついでに職員室まで一緒に運んでくれる?」


 この教室から生徒玄関に行く道の途中には職員室がある。もう帰る俺を見て、ついでに持って行ってもらおうとでも思ったのだろう。


「……わかりました」

「悪いわね」


 岩田先生は授業の片付けをすぐに終え、共に教室を出る。


「市本くん。何か悩みでもあるの?」

「……え?」

「今日、ずっとぼーっとしてる様子だったからさ。何かあったのかなと思ってね」

「……先生には特に関係ないことですよ」

「そう?ならいいんだけど。何かあったらいつでも相談しなさいね」

「分かりました」


 相談することはないだろうと思いながらも、適当に返事をして会話を終わらせた。


 そのあとは特に会話もないまま、先生の机に運び終わって礼の言葉をもらい、そそくさと職員室を出て玄関へ向かう。


 玄関に行くまでの間も、あの光景が頭から離ずにいた。

 この世から誰もいなくなってしまったのかと思わせるほど静かな教室。今にも沈みそうな夕日が、俺と彼女を淡く照らす。そして、彼女からの告白。


 夢なのではと思うような瞬間だった──


「あら、こんにちは。私を振った市本くん」


 玄関に着くと、今会うと一番気まずい人間が、そこにいた。

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