63.ベン様の誕生会

 朝日が眩しく感じて、目を擦る。

 頭の中は冴えないまま腕をグッと伸ばす。


「んんっ……」


 シーツに包まれていると、暖かくて起きれなくなってしまう。

 心地の良い夢を見ようと目を閉じたい。

 だけど、カレンダーが目に入ると自然と体はベッドが起き上がった。


「ふわぁ」


 カレンダーには日付と共にベン様の誕生日とメモ書きしてある。


「もう当日だ……」


 あっという間に準備期間は過ぎていった。

 自室の机にはベン様へのプレゼントと手紙がある。


「ベン様の笑顔を見るんだ」


 今日のパーティーはベン様に喜んでもらえるだろうか緊張をした。

 それでも、みんなで用意したお陰か大きな自信は確かにある。


「おはようございます」

「あぁ。おはよう」


 食堂に向かうと、ベン様はいつも通り凛々しい。

 心が浮つく私に対して、ベン様は普段通り落ち着いている。

 朝食を食べ終えてベン様が出かけると、みんな慌ただしく屋敷を飾り出す。


「よしっ! 準備万端!」


 あっという間に日が暮れる時間を迎える。

 窓の外からベン様の乗っている馬車が見えた。


「そろそろ来ますよ」

「はい……」


 ベン様の到着を待ち構えていると、緊張が漂う。

 うるさく鼓動をする心臓に手を当てて、心を落ち着ける。

 無言の空間ではベン様の足音がよく響く。


「夕食になさいますか?」

「あぁ。そうする」


 案内役をしている使用人さんとの会話に耳を傾けて、到着を待つ。

 食堂のドアが鈍い音を響かせてゆっくりと開く。


「ベン様! お誕生日おめでとうございます!」


 ベン様の影が見えた瞬間に拍手で出迎える。


「あぁ。ありがとう」


 ベン様の笑顔を見た瞬間にみんなの表情が綻ぶ。


「アイラも準備してくれたのか?」

「もちろんです!」

「今年は特別な一年になりそうだ」


 ベン様は私の頭に優しく手を置く。


「これよりリンドヴルム公爵家恒例ベン様の誕生会を開催しようと思います!」


 使用人の誰かが叫ぶと、一気にお祭り騒ぎになる。


「こんな素晴らしい場を用意してくれてありがとう。今日は無礼講だ!」


 ベン様は高らかに宣言をすると、シャンパンの開く音がした。


「ベン様! 改めて誕生日おめでとうございます!」

「ありがとう。アイラに祝われることは新鮮だな」

「これからも毎年祝います!」


 私はそう意気込んで、ベン様の手を優しく握る。


「今日の主役はベン様です!」

 

 ベン様の手をゆっくりと引いて、パーティーの中心へ連れていく。


「みんな楽しんでいるようですね」

「あぁ。良いパーティーになりそうだ」

「はい!」


 そんな話をしていると、使用人たちは一斉にベン様へ駆け寄る。

 みんな口々に感謝の言葉をベン様に伝えている様子を見て、とても慕われているように見えた。


「すごい人気ですね」

「主人としては嬉しい限りだ」

「私もベン様をお慕いしています」


 私の言葉にベン様は照れたような素振りを見せると、いきなり抱きしめられる。


「愛している」

「ありがとうございます……」


 ベン様の低くカッコいい声が耳元で囁かれると、顔から火が出そうになってしまう。


「今日はアイラも楽しんでほしい」

「はい!」


 豪華な食事に綺麗な飾り付けに陽気な雰囲気は私を幸せな気分にした。

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