56.帰宅
「帰ろうか」
眠気で意識が朦朧とする中でベン様の凜とした声が耳を心地よく撫でる。
太陽を眩しく感じる中で目を擦ると、辺りは見慣れた王都の景色が広がっていた。
「少し離れていただけですが、懐かしい雰囲気です」
「そうだな。安心する空気だ」
空を見上げると、雄大に広がる青と模様みたいな雲が目に映る。
遠征先に比べて少しだけ冷たい風が頬を撫でて通り抜けていく。
私の銀色の髪を揺らすと、王都がおかえりと言っている気がした。
「公爵邸に戻ったら、慣れ親しんだものを食べよう」
そんなことを話しながら駅を出て、馬車に揺られて、侯爵邸の門を通る。
ずっと暮らしている家を見て、安心感に包まれた。
私達が出かけている間も丁寧に整備された草木が優しく風に揺れている。
「おかえりなさいませご主人様」
「出迎えご苦労」
「無事に戻りました」
私は元気よくナターシャさんに手を振ると、張り詰めていた表情が一気に和らぐ。
「楽しめましたか?」
「はい! とても楽しめました!」
「本当に良かったです」
そう言って目尻に涙を浮かべるナターシャさんに戸惑ってしまう。
「随分と歳をとったものです」
「ナターシャさんは若々しいですよ」
「ふふ。ありがとうございます」
ナターシャさんの表情はとても幸せそうに見える。
そんな様子に私まで心の奥が温かくなってきた。
「遠征の話をたくさん聞かせてください」
「もちろんです!」
公爵邸の食堂には美味しそうな料理が並ぶ。
一口食べるだけでいつもの味が広がる。
私もベン様も無言で無事に帰れたことを喜びながら料理を食べ進めた。
「「ご馳走様でした!」」
満腹感に浸りながら、フォークを置く。
そのまま自室に戻って荷解きを済ませる。
「あっ……」
遠征先で購入したアクセサリーを手に持つ。
たくさんの楽しかった記憶を思い浮かべると、私の宝物がたくさん入った箱に入れた。
「アイラ様。湯浴みになさいますか?」
「うん!」
お湯で体を洗い流すと、ふわふわとした感覚を覚える。
すっきりした気分でナターシャさんに濡れた髪をとかしてもらう。
「とても楽しかったのですね」
私はナターシャさんに楽しかった思い出を話す。
笑顔を浮かべて頷くナターシャさんを見ていると、話は止まらなくなってしまう。
「あら? 旅で疲れてしまったのですね」
ずっと話していた位に興奮をしているが、それでも体はそれに応えてくれない。
段々と眠気が頭の中に広がっていく。
「今日は思う存分に休んでください」
ナターシャさんは髪をとかし終える。
私はそのまま部屋のベッドに向かう。
「明日からも幸せな日々を過ごしてください」
「はい……」
私はナターシャさんの優しい声を聞きながら目を閉じる。
明日以降も幸せ日々が待っていると思うと、とても気分は落ち着いた。
まだたくさん楽しいことが私を待っている。
そんな安心感に包まれて私は明日を迎える準備をした。
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