44.遠征に向けて

「ランドル王国への遠征が決定した」


 音楽団の練習中にベン様の言葉が響く。

 それを聞いた団員達は歓声を上げて、拍手をして喜んでいた。

 私は何がなんだか分からないまま、どんどん話が進んでいる。


「ランドル王国で演奏するのよ! 楽しみね!」


 ジュルアは私にそう声をかける。

 イマイチ私はどんな場所か分からず首を傾げた。


「温かい気候が特徴的で陽気な国って印象だわ」

「すごく楽しそう!」

 

 ジュルアの説明で大体のことを理解して、首を勢いよく縦に振って頷く。

 他国に行くことは初めてだからこそ、想像がつかない期待感を感じた。


「ランドル王国のタマルでの演奏を依頼されている」


 ベン様の一言をきっかけにみんなの興奮は一気に跳ね上がる。


「タマルですって?」

「タマルってどんな場所なの?」

「人生で一度は訪れたい場所として有名なリゾート地よ」


 ジュルアは目を輝かせて、私に説明をしてくれた。

 とても綺麗な海が近くにある場所らしい。


「素晴らしい場所に招待された分、全力の演奏で応えたいと思う」


 ベン様の言葉にみんな興奮と熱意に満ち溢れた声で返事をする。

 私は初めての国外や海への期待で頭の中がいっぱいになってきた。


「日傘を買っておきたいわね」

「なんで暖かい国なのに傘を買うの?」

「アイラ……太陽で肌がダメになってしまうのよ」


 ジュルアは呆れたような目で私を見つめる。

 そのまま、私の頬を摘むと、指で引っ張ってきた。


「アイラの肌は白くてプルプルなんだからお手入れしないと勿体無いわ」

「そうなの!?」

「ええ。本当に羨ましいわ」


 私はジンジンと痛む頬を手で撫でながら、ジュルアの話を聞く。


「遠征前に一緒に買い物に行きません?」


 ジュルアはたまには女子同士の買い物も楽しいわよと言って、笑みを浮かべる。

 確かにジュルアと一緒に街を回ることはとても楽しそうに思えて、明るい気分になった。


「それじゃあ、練習に戻ろうかしら」

「うん!」


 ジュルアは上機嫌でヴァイオリンを弾いている様子を見て、私も鼻歌混じりにピアノを弾く。

 今日の演奏はみんな陽気で元気の良い音に聞こえた。

 きっとみんな遠征が楽しみで上機嫌な状態で演奏をしているだろう。


「今日はお買い物だ!」


 遠征に思いを馳せながら練習をしていると、あっという間に日は過ぎる。

 私は王都にある広場に向かうと、ジュルアが腕時計を見つめて待っていた。


「お待たせ!」

「いえ、私もちょうど今来た所よ」


 ジュルアは鼻歌混じりに歩き出す。

 そんなジュルアの後ろを私はついていく。


「さて、いっぱい買うわよ」

「うん!」

 

 私もジュルアも王都を歩く足取りはとても軽かった。

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