35.一夜明けて

 昨日の興奮が冷めないまま、朝を迎えた。

 ベッドの側にある机の上にある箱を開く。

 箱の中からは髪飾りと指輪が輝きを放っている。


「えへへ」


 それを見つめると自然と気分は上がって、頬が緩む。

 私はギュッと貰ったプレゼントを握りしめると、心の中がポカポカとしてくる。


 顔を洗おうと鏡を見ると、表情は熱っていた。 

 熱を帯びている頬を撫でると、手には優しい暖かさが伝わる。


「すごく楽しかった……」


 私は小さく呟くと、昨日の幸せな時間が頭の中で思い浮かぶ。

 音楽団のみんなが快く迎え入れてくれて、すごく居心地が良く感じる。


「やっぱり好きだなぁ」


 その中でも特に印象に残ったのはベン様からのプレゼントだった。

 沢山私のことを褒めてくれたことは恥ずかしかったけど、やっぱり嬉しさの方が勝る。


「綺麗……」


 貰った指輪は朝日を青く反射していて、目を奪われるほどの輝きを放つ。

 ベン様が私に似合うようにと選んでもらっただけで、頬の筋肉の緩みが自分でも分かる。


「おはようございますアイラ様」

「あ、おはよう。ナターシャさん」


 そんなことを考えていると、ナターシャさんが部屋に入ってきた。

 

「昨日はとても大盛り上がりと聞いております」

「うん。すごく楽しかった」

「とても大切にされているのですね」


 ナターシャさんは昨日のプレゼントを見て、微笑ましそうに笑う。


「はい! 一生の宝物です」

「ベン様も真剣な表情で選んだ甲斐がありますね」

「それは嬉しいけど恥ずかしいですね……」


 私は照れ臭くなって、頭を掻く。


「そろそろ髪を結いましょうか」

「お願いします」


 毎日のようにナターシャさんは私の髪を結ってもらっている。

 いつも私が飽きないようにと適度にアレンジを加えてくれるから、この時間に飽きる気配がしない。


「音楽団にもかなり慣れてきましたね」

「はい! みんな凄く優しい人で心地の良い場所です」

「ベン様の誇りをそんなに褒めるときっと喜びますよ」


 ナターシャさんは他愛のない会話をしながらも、手つきが一切乱れることなく髪を結っていく。


「いつも疑問に思っていますが、アイラ様は私のことをさん付けで呼びますよね」

「ナターシャはすごく頼れるお姉さんだから、尊敬してそう呼んでるの」

「使用人冥利に尽きるお言葉です」


 そう言うと同時にナターシャさんは髪のセットを終えた。

 鏡を見ると今日はサイドを編んでいて、可愛らしい印象を持つ。


「髪飾りをお借りしても宜しいですか?」

「もちろん!」


 ナターシャに手渡すと、丁寧な手つきで髪飾りを着ける。


「これで完璧です」

「ありがとうございます!」


 私は今にも踊り歩く勢いで食堂に向かう。


「付けてくれたのか」

「はい!」


 ベン様は私の手を見つめると、嬉しそうに微笑む。

 

「髪飾りもとても似合っているよ」

「えへへ……ありがとうございます!」

 

 卓上に朝食を並べられると、今日の話題は歓迎会の感想ばかりで埋め尽くされた。

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