10.朝食
朝日がゆっくりと私の目を開かせる。
心地いい暖かさに包まれながら起きると、周りは広い部屋だった。
現実味のない様子に頬をつねると、ツンと痛みが伴う。
「夢……じゃない」
ボーッとしていた頭がだんだんと回ってくると、公爵邸にいると思い出す。
この家に来てから10日以上経っているが、未だに現実味がなかった。
「ふかふかだったなぁ」
以前は地下室の床で寝ていたが、ふかふかのベッドで寝たおかげで体は痛くない。
それに、埃一つない部屋の空気はとても美味しく感じる。
朝日を浴びながら腕を大きく広げて筋肉を伸ばすと、とてもスッキリした。
「おはようございます。アイラ様」
「あ、ナターシャさんおはようございます」
笑顔を向けてくれるナターシャさんを見ると、心が穏やかになる。
「それでは、朝食の前に洗面を済ませましょう」
「はい!」
ずっと食べることができなかった朝食は何日経っても楽しみなものだった。
朝食に期待を期待感を感じながら顔を洗う。
「冷たくない……」
今まで水で体を洗っていたから、温かいお湯は新鮮だった。
優しい感覚が肌に染みるのがとても気持ちよく感じる。
「気分はよろしいですか?」
「はい! すごくスッキリしました!」
「それなら、よかったです」
公爵邸は広いから、まだ部屋の場所は完全に覚えきれていない。
それでも、段々と迷うことは減ってきている。
「おはよう」
「おはようございます。ベン様」
春風のように穏やかな声が食堂に響く。
ベン様はきっちりとした服装で食堂に待っていた。
「ごめんなさい! 着替えてきます!」
「いや、今日は人と会う用事があるだけだ」
「そう……ですか?」
「ああ、ここは君の家でもある。気分は楽にしてほしい」
私は途端に恥ずかしくなってその場を去ろうとする。
だけど、ベン様は私を安心させるように表情を柔らかくした。
実家から冷酷な人だと聞いていたが、本当は優しい人だと思う。
「ありがとうございます……」
「まだ公爵家は慣れないか?」
「ごめんなさい……」
ベン様の質問に私は小さく頷く。
「ゆっくり慣れれば良い話だ」
「はい!」
ベン様と話をしながら食べていると、より料理が美味しく感じる。
1人で黙って食べるご飯よりも温かくて身に染みる気ががした。
あっという間に料理はお皿からお腹に移動してしまう。
「ご馳走様でした」
満足した気分で立ち上がると、スカートが破れていることに気付く。
「ごめんなさい」
「構わないが……」
ベン様は顎に手を当てて、何かを考えている。
「今日の予定はあったか?」
「午後は空いております」
「なら、空いている時間はドレスを買いに行こうか」
執事さんに予定を聞いたベン様からそんな誘いがきた。
だけど、ベン様の時間とお金を使うことに躊躇ってしまう。
「良いのですか?」
「ああ、ないと困るだろう?」
「でも、お金が……」
「君はこの家の一員だ。それ位なら自由に使っても構わない」
不安が解消されると、私は期待で胸がいっぱいになる。
「なるべく予定を早く済ませるから待っていてほしい」
「分かりました」
ベン様はそう言い残して、食堂を出て行った。
初めてのお買い物に私の気分は一気に最高潮まで達した。
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