終末コンビニエンス

モリアミ

終末コンビニエンス

 アヤカが小刻みな揺れを感じた時、幸いにも店内に客は誰も居なかった。

「ヤバッ!」

 地震の時、普通は開けた場所に避難する方が良い。しかし、今は駐車場に出るよりも店内に留まって居た方が安全である。揺れが段々と強くなる中で、店内の棚や商品は案の定倒れも落ちもせずそのままである。一体どんな仕組みなのかは分からないが、とにかく店長が大金を投じ、改装した成果が出ている。揺れはしばらく続き、大きな地鳴りを最後に収まった。店内には大きな変化は無かったものの、外はそうではないらしく、店には停電という被害がでて居た。揺れが収まり、アヤカは周囲の様子を確認する為に店の外に出たる。ぱっと見、何の変化も無い様だが、店前の駐車場を端まで行き違いに気付く。店に接続していた国道が歩道ごとごっそり無くなって居た。駐車場の縁から恐る恐る覗き込んでも、底すら見えない暗闇には道路何て見当たらない。もちろん、駐車場より先に何もありはしない。

「こりゃ大変だ、店長に報告しないと」

 アヤカは全く大変そうな素振りも見せず、店内へと引き返した。


 およそ2ヶ月位前から、世界は崩壊していっていた。テレビで、上田だか下田だかいう国立の研究所のセンセイが地球の重力があーだこーだって言っていた。曰く、地球の重力が極局所的変化を繰り返して部分的重力崩壊が起こっている、らしい。地球レベルではブラックホールにはなら無いので安心して下さいって言ってた。まぁ、地球は滅亡するけど。バックヤードに入ると店長はどっかに電話して居て、店の住所を告げ電話を切った。

「店長、もう店閉めましょうよ、さっき国道無くなったんでお客さん何て来ないですよ。停電もしてるし、ね?」

 店長は何時も通り、面倒臭そうに言い返す。

「知ってるよ、ウチは国道沿いの電柱から電気引いてんだから。大体、あの国道、先週から1台も車なんて通って無いだろ」

 確かに、最近来るお客さんは国道に繋がる脇道とかから来ては居る。

「でも停電してんですよ、停電、レジ使えないし、冷凍食品溶けちゃうし、ホットスナック冷めちゃいますよ? それに、後2週間すれば店の入口まで来ますよ、アレ。もう閉めましょうよ〜」

 アヤカの訴えを店長は全力で潰しにかかる。

「電力会社が後1時間位で来る。裏の電柱から電気引く様に前々から相談してたからな、数時間で工事も終わるから安心しろ」

「え〜、マジですか〜」

「ほら、戻った戻った、自動ドア開けて電卓用意しろよ、俺は保冷剤準備するから。まぁホットスナックは元からそんなに出して無いし、注文があったらガスコンロで揚げよう。」

「ウチの店、1日に数える程もお客さん来ないですって。閉めるのが数週間早くなったって誰も困んないですよ〜」

「馬鹿野郎、1人でもお客様がいる限りウチはやる。24時間年中無休、アナタの街のコンビニエンスがウチのモットーだ」

 アヤカは頑固者の店長に溜息しか出ない。

「他のバイトの子たちはどうなってんです? 私、最近ずっとワンオペで連勤してんですけど?」

「何だ、気付いて無かったのか? ウチは俺とお前と夜勤が1人だけだぞ? まぁ、持ってあと数週間だし頑張ってくれ。大体、ほとんど客何て来ないんだし、大丈夫、だろ?」

 アヤカはニカッと笑う店長をひっぱたきたい気持ちを抑え、レジに向かった。すると、閉まった自動ドアの前で、店の近所のオバちゃんが待って居た。

「すいません、今開けますんで」

 慌てて自動ドアを開けたアヤカは、入ってきたオバちゃんに注意を促す。

「すいません、今、停電でレジがすぐ開かないんで、お釣り用意出来ないんです」

 それを聞いたオバちゃんは、豪快に笑いながら答えた。

「なに、明日にでも終わろうって世界なんだし、お金なんていつまで持っててもしかた無いでしょ? 釣りは要らないわよ」

「すいません」

 恐縮して頭を下げるアヤカに顔を寄せて、オバちゃんは囁いた。

「一度、言ってみたかったのよね、釣りは要らねーって」

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