第25話 最果ての修道院②

 不思議に思ったパナピーアはアクアを見る。

 すると彼女は後ろめたそうにパナピーアをチラッと見てすぐ目を逸らした。



「もう決まっている事ですから……避けるのは無理だと思いますわよ?」


「決まってる? でもゲームそのままのことが起こるわけじゃ無いんだし、今度はあたしがフラグ折っちゃえば良いんじゃないの?」


「それが……」



 言い淀むアクアを不思議そうに見るパナピーア。

 そして見兼ねたフィリンティアが話し出す。



「あの……今度は据え置きのゲームじゃないの」

「え? もしかしてPCパソコン?」



 アクアとフィリンティアが首を横に振る。



「じゃあ、携帯型ゲーム?」

「きっとスマホなんじゃない?」



 メロディーが口を挟んだ。

 すると、アクアが言いづらそうに……。



「漫画化されましたの。空前の大ヒットでしたのよ? ですからストーリーの分岐もありませんし、本人が話を捻じ曲げる事も難しいと思いますわ」


「はい⁉︎」



 予想外の展開に声がうわずった。



「以前この修道院にいらした女性で、漫画の主人公という方が……」


「そ、その子、どう成ったの?」

わたくしたちのように、何かを選ぶ自由はほとんど無かったそうですわ。それに変えられる所が少なく、やっと変えても結局元に戻るとおっしゃってましたし……」


「その人、パナピーアと入れ違いで、第二章のお話のためにお迎えが来て、連れていかれちゃったわよ?」

「ううう、嘘でしょう?」



 あっけらかんと言われ、パナピーアは開いた口が塞がらない。

 そこへフィリンティアが追い討ちをかける。



「あの人、ここでもフラグ折りまくってたのにダメだったんだから、きっと無理なのよ。諦めたほうが良いんじゃない?」

「いやぁ〜! 嘘って言ってぇ〜!」


「お察ししますわ……」

「パナピーア、かわいそう。──でも私じゃなくて良かった」



 どうにもならないと聞き、ポジティブなパナピーアもさすがにしょんぼり項垂うなだれる横で、メロディーが思わず本音を漏らす。

 パナピーアは本当にもう主人公は懲りごりだったのに……。



「あ、でも。ほら、漫画ならハッピーエンドだし、頑張れば幸せになれるんだから大丈夫じゃない? 私ならラッキーって思うかも?」


「そうよ大丈夫。わたし、漫画も読んだの。あの話はハッピーエンドよ? だから今度は幸せになれるわ。わたしが断言する」

「本当?」



 必死に励ますメロディーとフィリンティアに、ほんの少し気分の上がったパナピーア。

 二人が、パナピーアはチョロくて良かったと思った時、アクアが最後を締めようとするかのように口を開いた。



「きっと後から、楽しい思い出になると思いますわよ? 何しろ全五十二巻の大作ですもの……」


「へ? 何巻?」

「だから、番外編含めて全五十二巻ですわ」



 パナピーアの目がこれ以上ないほど見開かれる。



「ごごご、五十二巻〜⁉︎」



 あまりの長さに呆然とするパナピーア。



「お話的には第四章まであったけど……パナピーアなら大丈夫。頑張れるわ、わたし信じてる!」



 フィリンティアのはなむけの言葉が耳を吹き抜け、さっきの言葉が脳裏をぎる。


 戦闘でてんこ盛りが事故って暗殺のハプニング⁉︎


 パナピーアは完全にパニクっていた……。



 むり無理ムリ!

 あたし耐えらんない!

 これからはここで慎ましくも自由に生きられると思ってたのに……。

 なんてこと!



 パナピーアは涙目だ。



「私、あなたの活躍を楽しみにしてるわ」

「わたしたちは応援しか出来ないけど、頑張ってね? パナピーア」


わたくしも何かできるなら協力いたしますから、お手紙くださいましね? ……なるべく詳しくお願いしますわ」



 瞳をきらめかせるメロディーと、口許をヒクくかせるフィリンティア。

 そして慈愛と見せかけた黒い笑みで優しく声をかけるアクア。



「みんな……ありがとう?」



 パナピーアの困難はまだ始まってもいなかったらしい。

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悪役令嬢は折れたフラグに気が付かない 早奈恵 @shana-k

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