第17話 予知夢のエドウィン

 予知夢のパナピーアは、母亡き後引き取ってくれた唯一の肉親で、自分を愛してくれると信じていた父にまで見放されてショックを受けていた。

 寮の部屋に帰る気も起こらず、彼女はフラフラと学園の敷地内を彷徨さまよい歩く。


 そしてここでも謎の迷子設定が発揮され、林の中を歩き回っているうちに一般寮からはるか離れた特別寮──すなわち王族と上流貴族専用寮の敷地内に入り込む。

 そして、王宮から連れて来られたばかりの愛馬に会いに来ていたエドウィンと出逢うのだ。


 エドウィンは、林の中を無闇矢鱈に動き回って枯れ草や葉っぱをくっ付けたままの女の子に驚いた。

 思わず笑ってしまいその上、自分を見ても王子だと気が付かないパナピーアに興味を持つ。


 しばらく話して意気投合した事で、気を良くしたエドウィンがパナピーアを愛馬に乗せ、内緒で寮まで送っていく事に……。

 この時エドウィンは胸の高鳴りを感じ、別れ難い思いをして『これが恋に落ちたというものか……』と気付く。


 ここからパナピーアのシンデレラストーリーが始まるのだ。


 もちろんミニゲームなどは無いだろうし、生きている以上ゲームに出てこない普通の生活の部分もある。

 もちろんターン制では無いし、一日にできる事の回数制限も無いだろう。



 あれ?

 それならゲームより、その日のうちにできる事、増やせる?

 もしそうなら、ゲームより早く高感度上げたりできるんじゃない?

 という事は……卒業まで待たなくたって、好きな相手と婚約できるじゃない!


 そうと分かれば、こんなところでぐずぐずしてられないわ。

 そうだ、もうどうせお父様は面談室なんて行かないでそのまま帰ってしまうんだから、このまま林に行っちゃおう!


 そして厩舎にエドウィンが来るのを待っていても良いじゃない?

 もし今日がダメでも、あの王子様を遠くから見るだけだって目の保養。

 二次元じゃない生身の彼を堪能できるチャンスだわ。



 そういうわけでパナピーアは林へ出かける。

 ただ、特別寮は簡単には見付けられない。


 それはそうだ。

 重要人物が暮らす場所は禁域魔法がかけられているのだから、普通の人なら無意識に避けるはずなのだ。

 そこにヒロインが入り込むには、それなりの手順がある。


 予知夢の──いや、ゲーム内のパナピーアは、ここまでに攻略対象三人と出会いイベントをこなしている。

 それがフラグとなっていて、すべての出会いイベントの会話を高得点でクリアした場合に、エドウィン王子とここで出会う。

 もし失敗の場合、三人の好感度が上がって彼らから紹介されるまでエドウィン王子との出会いは起きない。


 今のパナピーアは、出会いイベントをすべて失敗している。


 だからなのか、禁域魔法を突破できずに特別寮からだいぶ離れた場所を歩き回っているのだが、パナピーアはゲームそのものでは無いのだから、ある程度融通が利くと考えていた。


 それはこれまで生きてきた中で、多少ゲーム通りではなくても今日の入学式まで進んでこれたからで、彼女の中では根拠の無い自信に繋がっているのだった。



「おかしい、おかしいわ。なんで着かないの?」



 ようやく彼女が気が付いた時には、相当の時間が経っていた。



「……もう帰ろう。今日はダメだわ。きっと明日以降挽回できるはずよ。だってあたしはヒロインなんだから!」



 そう叫んだ直後。

 黒い影が複数現れた。



「ななな、なに⁉︎ やだ、あたしは大した事ない男爵令嬢よ! さらったって身代金は取れないし良い事ないわよ?」



 色々わめいてみたものの、それらはまったく役に立たなかった。

 ドスっと腹に一発食らって呆気なく意識を失う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る