第16話 激おこパナピーア

 パナピーアは憤慨していた。


 この世界は彼女の知っている乙女ゲームに酷似している。

 だから父親の男爵に引き取られ、王立学園に通えると分かった時には喝采を叫んだものだった。

 なのに、意気揚々とやってきた初日。

 シナリオ通りに行動したはずなのに、ことごとく失敗に終わっている。



「みんな、何なのよ!」



 最初のアンセムとの出会いだってゲーム通りに進んでいたのに、横の廊下から来るはずのアデリアーナとアンセムが前方を歩いていた。

 あの時点で『ちょっとおかしいな……?』って、思ってはいたのだ。

 だけどぶつかれば、結果はおんなじで変わらない……と思った。



 なのにぶつかったあたしが悪いから謝れ、なんて言うんだもん。

 あたし。わざとなんかぶつかってないわ。

 あれはだけじゃない。

 それにちょっと押したくらいで大袈裟なのよ。

 しかもアンセムは一目惚れしてくれる設定なのに、ぜんぜんまったく好意が感じられなかったし……むかつくわ。



 そうなのだ。

 アンセムはクーデレのクーがヒロインには向けられず、それ以外の人全員に絶対零度でヒロインは溺愛、という温度差の激しいキャラ設定だった。

 なのにヒロインであるパナピーアにも塩対応。

 そして悪役令嬢のアデリアーナにはデレ始めていた。


 それにゲームのシナリオには出てこない事情聴取があったせいでセドリックとの出会いまでおかしくなっていた。



 ちょっと時間がズレたからって、なんで子猫ちゃんがどっか行っちゃうのよ?

 おかしいでしょ。



 それに優しく話しかけて来るはずのセドリックは素通りしそうになっていた。

 話しかけなかったのはまだ我慢できるが、こちらから声を掛けたのにあの塩対応はどうなんだろうとパナピーアは首を傾げる。


 時間も子猫も会話までまったくゲームとは違う。

 しかもやっと探して見付けたと思ったガイウスまでもが、パナピーアに見向きもせずアデリアーナに優しくしている。


 ゲームのアデリアーナは攻略対象者四人から嫌わていたはずだった。

 なのに、ヒロインをお姫様抱っこで運んでくれるはずのガイウスが、パナピーアを睨んで悪役令嬢を運んでいってしまう。



「ヒロインはあたしよ! なのになんであたしに冷たくしてアデリアーナに優しくしてんの⁉︎ なんでこうなっちゃったのよ!」



 いったいこの世界はどうなっているんだろうかとパナピーアは頭を抱えた。



 でもここで諦めるのはまだ早いわ。

 だってエドウィン王子との出会いイベントはこれからだもん!



 パナピーアとエドウィンの出会いは入学式が終わったあと。


 多くの新入生が家族としばしの別れを惜しむなか、パナピーアの父はさっさと帰ってしまう。

 薄々感じていたが、父親は庶子のパナピーアの存在が明るみに出てしまい、領民に良い印象を与えたいがためだけに引き取っただけだと確信する。


 彼女の入る寮は富裕層の一般市民の入る寮と変わらない。

 メイドを連れて来れるのは伯爵以上の中流貴族でも裕福な貴族たちだけだった。

 部屋も三人部屋なので、このまま寮に帰っても同室の子に家族の事を聞かれるかもしれないと思うと、部屋に行きたくないと思った。

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