兄が吸血鬼と同居している件

惣山沙樹

01 先着者が居た件

 落ちた。全部落ちた。

 何って、大学。あんなに遊ぶの我慢して勉強したのに! 模試では良い判定が出ていたのに!

 むかつくむかつくむかつく、何であたしだけ、女子大生になれないの!?




 あたしは小遣い全部を握り締めて、新幹線に乗った。荷物はキャリーバッグとハンドバッグ。急いで出たから、足りない物もあると思うけど、それは後から買い足せばいい。

 新幹線の中では、乗換案内アプリで、何度も行き方を確認する。一人でこんなに遠出するなんて初めてだけど、案外何とかなるだろう。

 実際、人混みに揉まれながらも電車の乗継は上手くいって、今度は地図アプリを見ながら、繁華街を少し離れた通りを歩く。


「なんか、夜は治安悪そうだなあ」


 陽が傾きつつあって、あたしは少々不安になりながらも一軒のアパートを目指す。ようやくたどり着いたアパートの集合ポストには、「302 三島」との文字が書かれている。うん、間違いない。あたしはチャイムを叩きつけるかのように押しまくる。


「お兄ちゃん! あたし、由香だけど!」


 久しく見ていないあのぼんやり顔が出てくることを期待しつつ、キーロックの外される音を聞いていたのだが、現れた人物は、兄ではなかった。


「どうも。三島さんは、今コンビニに行っていて、留守ですよ」


 そこに居たのは、青白い顔をした、美形の青年。長めの黒い前髪が、高い鼻筋に沿って流れている。こげ茶と言うよりは真っ黒に近い綺麗な瞳。うわっ、なんというイケメン――って、そうじゃない。


「すみません。誰ですか?」

「メイといいます。ここに居候させてもらっています」

「はい!?」


 あたしは今から、兄・礼の元に居候してやろうと思っていたのに。

 まさかの先着者が居た。

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