第6話 子供のクリーチャー
『あんな優しかった普通の人が残酷な復讐の鬼になってしまうものなのか?発狂ってやつなのかな?たかだか女にふられただけで。人間ってそんなもんなのか?』
ヒナタは、目の前で見た残虐な男と脳内に語りかけてきた男が同一人物にはとても思えず、激しい違和感を感じた。
『クリーチャーって一体何だ?あの少女は人間の顔をした化けものとか変えられたって言ってたけど。でも一昨日のチンピラはもともと自警団の仲間だったんだろ?どういうことだ?それにあの少女はなんで俺に話しかけてくるんだ?そもそも俺は君を探しに来たんだよ。それならどこにいるか教えてくれよ』
『…』
『…ってそういうことは教えてくれないんだよな。そうだよな。じゃあ自分で探すかな』
ヒナタは少女の行方を探した。渋谷駅の商業施設のどこかで働いているかもしれないという当てになるのかならないのか程度の情報を頼りに、それらしき商業施設を歩き回った。
『しかし特区の人ってのはメガネかけてる人が多いな。これがあの小生意気な女が言ってたVRグラスってやつか。ぶつぶつ独り言言ってる人も多くてきしょいな』
ヒナタは一日中探し回ったが見つからず、六本木に帰るバスを待っているところだった。とある夫婦が行方不明の息子を探し出すためのビラを配っていた。小学校2年生(8歳)の息子が1週間以上前から行方不明で、写真付きで絵を描くのが好きであるとか特徴がこと細かく書かれていた。
「息子が行方不明なんです。大事な大事な一人息子なんです。もしどこかで見かけたらこちらへ連絡お願いします」
何日も寝ずに探し続けているのだろう、夫婦は目に見えて疲弊しきった顔をしていた。
『都会はほんと色んな変なことが起こるな』とヒナタが考えていると、また少女の声が聞こえた。
『ヒナタ。あなたはもうわたしには会えない。わたしはもうそこにはいない。探しても無理。その子を探してあげて。あとクリーチャーを見つけたらやっつけて。それが君の今のお役目よ』
『え?!なんで?君はあの少女だよね?もういないってどういうこと?』
少女は何も答えない。
ヒナタはビラを一枚受け取った。
ビラから何かの情報がヒナタに送られてくる。
その子供のいる場所のイメージが脳内に浮かんだ。ヒナタはゆっくりと走り出した。
向かったのは原宿にある築40年のボロアパートの一室だった。鍵は空いていた。
ヒナタは扉を開けた。
住人の年寄りのばあさんが椅子に縛り付けられている。子供は畳にキャンバスを広げて絵を描いている。部屋の端には描いた絵が4、5枚置かれていた。
子供がヒナタの方を振り向いた。子供はすでにクリーチャーと化していて、目つきは釣り上がり、髪の毛や顔は絵具で染まっていて、餓鬼のような様相だった。
「誰だ君は?」
子供の声はやけに大人びていた。
「君が迷子の子か?」
子供は首をかしげた。
「は?迷子?おれは昔からずっとここで書きたい絵を描いてる絵描きだよ。この婆さんと一緒にここでね」
ヒナタはビラを見せた。
「何を言ってるんだ?ほら、これは君だろう。こっちは君のお父さんとお母さんだろう」
子供はまた首をかしげた。
「そんな昔のことは忘れたよ。何年前の話だ。両親にはとっくの昔に捨てられたんだよ。小学校の先生に学校の勉強ができない子はこの社会で生きていけないって、先生の言う通りにできない子はダメだって、絵なんか描いても何の役にも立たないって言われて。両親もそうだって、学校の勉強ができなくて絵ばっかり描いてる俺はダメ人間なんだって。で、20年前にこの婆さんが迷子で泣きながらうろついていたおれを家にあげてくれたんだよ。この婆さんは学校なんて行かなくていいから好きなだけ好きな絵を描いていいって言ってくれたんだ」
年寄り婆さんは椅子に縛り付けられたまま気を失っていた。
『何を言ってるんだ、この子供は』
「この婆さんはおれに好きなことを思う存分やらせてくれたんだ。それにね、学校に行かなくても、算数でも理科でも大事なことはこの婆さんが全部教えてくれたんだ」
ヒナタが黙って聞いていると子供は続けた。
「フェルミオンと新式和算から見る論理学という砂上の楼閣の話を知ってるかい?相互作用がない多粒子系でも,量子系ではマクスウェル=ボルツマンの速度分布が破れるんだ。これは、古典論理学という「現象を粗くみる学問」でも、量子世界の構造を使うと、意識や創発が生成し、消滅するメカニズムが使え「A→B」を粗子とした粗末な論理学の「A→B」そのものが無意味となることを証明し、意識と論理を新式和算は繋げたとなるんだ。量子論に登場する粒子は,フェルミ粒子(フェルミオンfermion)Aか、ボース粒子(ボソンboson)Bかに大別される。いずれの場合も同種の粒子はまったく識別不可能で,AB2個の同種粒子を入れ替えても量子状態は不変だと考えるからだ。例えば、量子流体が出現する舞台となるのは、低温状態で出現するボースアインシュタイン凝縮という現象が重要になる」
『うぅ。何を言ってるか分からん。小学生の話す内容じゃない』
ヒナタは子供の話す内容に圧倒された。
「君は量子力学を知らないんだね。いい大人なのに。それじゃ今この世界で起こってることなんか分かりっこないよ。じゃあ君は今この国がおかしくなってしまっていると思ってるだろう。僕もそう思っているんだ。なんでか。どうしたらいいか。僕の考えを聞いてくれるかい。まずね、武士道というものをきちんと理解しなくちゃならないと僕は思ってるんだ。勘違いされやすい武士道の本質だよ。武士道の原型は、渡来してきた新羅や百済人の気質「感情爆発から自殺しやすい人たち」「情に厚く、信念〈情念〉と外からの目に敏感で噂を極めて気にする人たち」の特徴が日本の渡来豪族単位に残った状態から発生してるんだ。この豪族システムは中央集権に合わない状態であり、そこで秦氏由来の道教からの道徳で豪族システムを制御された「新羅や百済体質」の極限な平和状態になって行き着く先が江戸期に生まれた葉隠的武士道の本質なんだ。これが大神比義が創り出した「中央集権としての天皇」のシステム「宇佐からの八幡信仰」なんだ。日本で一番多い神社は八幡信仰と稲荷であり、それは秦氏の神だ。天皇システムとしての宇佐八幡を作るとき、辛氏と秦氏が深く関与し、その天皇の為の捨て身の姿勢が「原始的八幡菩薩」として古代三輪族の大神比義のミワザにより中央集権としての天皇を創り出してる。この源氏由来の八幡信仰を北条氏が利用し、源氏から乗っ取り汚してからの鎌倉が天皇と対立する歴代幕府を生み出してきた。しかし、豪族単位でのモノノフ体質をまとめるのに、やはり八幡信仰や天皇システムからの承認が必要となる。鎌倉時代より前のモノノフは、渡来豪族単位でのモノノベ的なモノだった。東国や隼人など朝廷に従わない豪族のような蝦夷のようなモノノフたちだ。なので、ローマの言葉を持たない奴隷だったグラデエイターがそのまま聖書読めなくても、神の為のジハードすれば救われるとしたキリスト教的神の支配の十字軍を経て生まれた騎士道とちがい、下剋上も当たり前で、自分の意思で仕えるボスを選ぶから、全てはその選択をした自分の道〈自己責任〉となり、百人いたら、百の武士道が発生するんだ」
『うぅ。さらに何を言ってるのか分からんぞ。こいつはやっぱりクリーチャーなのか?』
ヒナタは何も言い返せない。冷や汗が止まらない。
「君は本当に何も知らないんだね。きっと真面目に学校で勉強してきたんだね」
子供は自分の書いた絵を指さした。
「ほら、僕の絵を見てよ。綺麗だろう。僕には世界はこう見えるんだよ。こんなに輝いてみえるんだよ。でもね、最近分かったんだ。みんなにはこんなふうに見えてないみたいなんだよ。だからみんなこの絵を見て面白い絵を描くねって言うんだよね。僕はみえたままありのまま描いているのに。みんな思考も停止しちゃってるし、感覚もまひしちゃってるよね。ロボットみたいだよね。あのチップのせいなんだよ。14年前のね」
「チップ?14年前?」
「ぼくもさ、学校の勉強が出来なかったわけじゃないんだよ。たんに先生の話が退屈だったんだよね。算数も歴史も僕の考えていることとなんか違うんだもん。先生の言う正解が僕には正解には思えなかったんだよ。みんなを馬鹿にしようとしているようにしか僕には思えなかったんだよ」
『うぅ、なんとなくこの子の言ってることに何となく同意してしまう……でもなんか違う。自分の言葉じゃない。喋らされているのか』
「君は何者なんだ?君はクリーチャーなのか?君は君じゃないのか?」
「いい質問だね。僕は僕であってもう僕じゃないんだ。でもきっと君もそうだろう。君が君じゃない時を君はきっと経験しているだろう。人間ってそんなもんだよ。で、例えば僕がクリーチャーだとしたら、君は僕のこともヤるのかい?チンピラやフラれて発狂したやつと同じようにヤるのかい?」
『なんで?!そんなことこの子が知ってるんだ?』
「ヤッてくれていいんだよ。僕はもう十分人生を生ききったんだ。むしろヤッてくれよ。ほら、そこに包丁あるから」
子供は台所に行き包丁を手に取った。そしてヒナタに渡そうとしたが、ヒナタは何も反応せずにいた。
「もしやらないなら、いいよ。俺がこの婆さんを道連れに心中するからさ。この婆さんももう老い先長くないからね。僕も流石に1人じゃ寂しいんだ」
と言うと、子供はくるっと振り向き婆さんに向かって包丁を突き付けようとした。
「や、やめろ」
ヒナタは反射的に後ろからその子供を捕まえようと飛びついた。倒れ込む子供をヒナタが上から押さえ込んだ。
「ううぅ」
子供のお腹から血が流れていた。押さえ込んだはずみでナイフが子供の胸に刺さってしまっていた。子供は数分後死んだ。
ヒナタはばあさんの容態を確認した。まだ息があった。ヒナタは救急車を呼び場所を告げるとその場を去った。
ヒナタは事故とはいえ子供を目の前で半ば殺してしまったことに深い失意を覚えた。
『ここで何をしてるんだ、、、おれは? 狂った大人はともかく子供まで。。。』
『ていうか、クリーチャーって単に人が発狂したじゃないのか?』
ひなたはクリーチャー化した子供が子供レベルの知識を超えた発言をしていたことから、何者かの人格が乗り移っている、もしくは何者かに操られている、と確信した。
『そうか。そういうことか。で、だとしたら、目の前のクリーチャーだけをどうにかしても根本的な解決にならない?ん?チップ?そうか。昔親父が話していたやつだ。俺たちはチップの埋め込みを拒否したんだって言っていたやつだ!そのチップで何かしらの通信をして操っているのか。そうだ。そうに違いない。チップの摘出だ。山麓に戻って、さくら先生に相談してみよう』
さくらというのはヒナタの住む山麓で医者をやっている女性だ。30代前半くらいの歳で昔からヒナタを可愛がってくれていた。
ヒナタは、春のところに戻るとすぐに、自分の住んでる山麓に一緒に行こうと春を説得した。
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