この世界の簡単な説明

 あの婚約破棄があった卒業パーティーから数日後、無事貴族学校を卒業した俺は自分の領地であるウルシュタイン男爵領に戻るために移動していた。学校を卒業したので俺は貴族として領地に赴き、その責務を全うしなくてはならない。


 アリアンヌ嬢の事は心配だったが、下級貴族である俺がおいそれと会える相手でもないのであれからどうなったのかは分からない。一応あの後彼女の父親のアグリカ公爵が王家に猛抗議し、それで今王宮が大混乱している…という話までは風の噂で流れてきたが。


 なにぶんインターネットはもちろん、TVもない世界なのでニュースが王国の各地まで届くのに時間がかかるのだ。新聞はかろうじてあるものの、この王国の僻地まで王都の最新ニュースが届くまで10日近くかかる。完全に「速報(笑)」状態だ。


 まぁ現時点で下級貴族の俺が中央の偉い貴族様の事を思ってもどうにかなる物でもないし…。俺はその事はひとまず頭の端に置いておくことにした。


 俺は領地に着くまでの間、マウ車に揺られながら今の自分の置かれている状況を整理する事にした。ちなみに「マウ車」というのは馬に似た生物である「マウ」に引かれて移動する車の事である。ほぼ「馬車」と思ってくれて相違ない。


 …俺は前世の記憶を持っている。前世は日本の高校生だった漆原晴人。そして高校卒業の日に交通事故に遭い、この世界に転生してきた。


 この世界はミネイルという名の世界で、俺が今いるのはワロッド大陸の南東に位置するタージファ王国。比較的温暖な気候で作物も良く取れ、政治も今のところは安定している。…これからどうなるかは分からないが。


 そして俺はこの世界の田舎に小さい領地をもつ男爵の跡取り息子として生まれた。12歳まで領地で育ち、そこから6年間王都にある貴族学校に留学し勉強していた。しかし卒業まであと1年という時に父親が急死し、急遽俺が爵位を継ぐことになる。


 爵位を継いだ俺は貴族学校を退学して自分の領地に戻ろうとしたが、使用人連中が「領地の事は我々に任せて、あなたはあと1年勉強してきてください」というので残り1年貴族学校で勉強し、そして晴れて数日前に卒業することができた。


 タージファ王国は西のマンチャント王国と北のモン・スマ帝国と国境を接しており、マンチャント王国とは友好を築けているが、北のモン・スマ帝国とは長年敵対状態である。つまりこの世界はいつ戦争が起こってもおかしくない世界という事である。


 …爵位を持つ者は戦争になると貴族としての責務を果たさなくてはならない。要するに一度ひとたび戦争になると俺は兵士を伴って戦乱に身を投じなくてはならないのだ。


 前世の日本は平和そのものだったから戦争のある世界…自分含め、大勢の人が死んでしまうかもしれないという事実に俺は恐ろしさを感じて背筋が震えた。


 そしてもう一つ、日本とこの世界が決定的に違うのは…この世界には所謂「魔法」という物が存在するのである。


 物を探したり火を焚いたり、はたまた移動手段だったり、生活に便利な物から相手を傷つけるものまでその用途は様々だ。もちろん戦争にも使われる。戦争ではこの「魔法」というものが戦略兵器級の働きをするらしい。


 俺がまだ生まれる前…50年ほど前のモン・スマ帝国との戦いでは1人の大魔法使いが放った火の爆発魔法が1000人もの人間を一気に焼き払ったらしい。恐ろしい話だ。前世の世界では「一騎当千」などありえない話であったが、この世界では魔法を使えばそれがなしえるのである。戦場に行った俺は無惨にも魔法で焼き払われて犬死にするかもしれないのだ。


 もちろん俺は死にたくない。前世の俺は残念ながら高校生で交通事故にあってあっけなく死んでしまったが、その分今世では寿命までめい一杯生きていたいのだ。戦場で死ぬなどもってのほかである。


 死にたくないならどうるべきか? 


 幸い、俺の領地であるウルシュタイン領は王国の南東の端っこにあり、モン・スマ帝国との戦いに駆り出される可能性は低いと思われる。戦争になった場合、まず駆り出されるのは王国の北方に領地をもつ貴族たちだからだ。


 …もちろんモン・スマ帝国が王国の北の大城壁を打ち破って王国内に侵入してきたり、北の領主たちの軍が消耗し、兵隊の数が足りないとなれば話は別だが。


 今の時点では戦争に駆り出される可能性は低いが…準備と覚悟をしておいた方が良い事も確かだ。前の戦争からそろそろ50年経つ。前回の戦いはモン・スマ帝国の大敗で終わったそうだが、50年も経てば帝国も戦争する分の国力は回復してきていると思われる。


 帝国は国土の大部分が雪に覆われており、作物が取れにくい。なので気候が温暖で作物がたくさん取れる王国の地を欲している。帝国にとって作物が沢山取れる土地への進出は国の国是である。なので王国と帝国が和睦することは無いだろう。


 そして何も戦わなくてはならないのは人だけではない。野生動物も人を襲う敵である。俺の領地であるウルシュタイン領の南には「魔の森」と言われる広大な大森林地帯が広がっている。


 昔は何某なにがしとかいう貴族の領地だったらしいのだが、その家が断絶した後は誰も手を出そうともせず、そのままの状態で放置されているのだ。


 「魔の森」は大きさにして約1州分はあるといわれており…州というのはこの国の行政区画で日本で言う県に等しい。領地の広さだけで言うなら伯爵級の領地の広さである。


 そんなに大きな領地なら欲深い貴族が欲しがりそうなものだが、誰も手を付けないのには理由がある。


 それは「魔の森」の奥地には強力な野生生物が多数出現するのである。前世のゲームでよく出て来た「魔物」と言っても差し支えないだろう。この世界の動物は前世とは違い魔法を使ってくる。なので1匹の強力な魔物に村が全滅させられたという話も珍しくはない。


 「魔の森」の奥に住む魔物は凶暴で人の手に負えないようなものが多いのだ。そういう理由で貴族連中は自分の兵士に多大な被害が出るのを嫌がり、開発を放置しているのである。


 ウルシュタイン領と接している「魔の森」の端には今の所強力な魔物が出たという報告は無いが、いつ出てきてもおかしくはないのも確かだ。平民を魔物から守るのも貴族の仕事の1つである。もっと言うと平民が魔物にやられるとそれだけとれる作物の量や税金が減るので避けたいところだ。


 …以上の事を踏まえて、俺は自分が死なないようにするためにどうすればいいのか考えた。


 そして考えた結果、俺は領地を発展させて強力な兵隊を育てる事にした。戦争でも魔物相手でも、強い兵隊に守られていれば自分が死ぬ確率はそれだけ減るだろう。大軍に守られている大将は死ににくい。簡単な話だ。


 そして大量の兵隊を雇うにはそれだけ金が要る。経済的にも領地を発展させなければならない。


 更には経済力を持つようになれば…偉い貴族の方とのコネクションもできるだろう。そいつらに媚びを売りつつ、自分は戦争に駆り出されないように取り図ってもらう。これだ!


 となると…まずはあのクソ田舎のウルシュタイン領を発展させなければいけないな。前世で高校生だった俺がどこまで出来るか分からないが…。とりあえずやれるだけやってみようではないか。こう見えても歴史は得意だったのだ。こうして俺はこれからの方針を決めた。


「男爵、もう少しでウルシュタイン領に着きますぜ?」


 マウ車の御者が俺に声をかけて来る。車の窓から外を見るとウルシュタイン領を守る木の柵が見えた。あぁ、懐かしき我が領地だ。



○○〇


簡単な世界観の説明です。この世界で主人公はどう成り上がっていくのか


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