第13話 新しい出会い
アイリスのくれた〝勢い〟のあるうちに探索組合に行き、グループの斡旋を申し込んで、すぐに探索用の装備を整えてきた。まずは生活費を稼ぐのが先決だ。
既に待機していたのは、自警団志望でヨーンに来たばかりの「自称ヒヨッコ」。
依頼はノイで北西に10分ほど行った先の禁足地で、涸れ井戸の内部の調査だった。
「エリムレアさん、俺ずっと憧れてたんっすよ!」
「……えっと……どうも」
「白銀の双剣士とか、静寂の刃とか、寡黙の剣士とか、なんかカッコいいっすよね! 背中を見て育ちたかったなぁ! 退団してたなんてすげーショックですよ」
ちょっと軽いノリの彼はフェンナ。
「あんたはちょっとしゃべり過ぎ!」
フェンナを諫めたのは、彼の双子の姉のジョンナ。
年頃は17、8歳くらいだろうか。言い方は悪いけれど、痩せっぽちの「いかにも駆け出し」という風体。
こんなに若くても、女性でも、冒険者であり自警団を希望してるんだ……。
「二人はどちらから来たんですか?」
「王都のギンナザメリス。王都って聞くとさ、都会なイメージあるじゃないですか! それがヨーンの方が人は多いし店はたくさんあるし、訓練施設まであるし、もはやヨーンのほうが王都みた――いて!」
ジョンナがフェンナの後頭部に手刀を振り下ろした。
「聞かれてないことまでよくまあペラペラと……エリムレアさん、フェンナがうるさくてすみません」
「いえ、大丈夫ですよ」
ギンナザメリスと言えば、キージェの出身地だ。王都っていうくらいだからもっと都会なのかと思ってた。
最近水が涸れたばかりだという井戸を降り、内部の横穴を進んで行くと広い空洞に出た。
この空洞の途中まで作成されていた地図の続きを描くことが今回の目的。
「姉ちゃん、エリムレアさんってめっちゃ顔が良いな!」
めっっっっちゃわかる! ほんとはナズナ視点で見ていたいもん。
「馬鹿言ってないで気を引き締めてよ!」
私に絵心があるかどうかは別として、動物のスケッチ程度はできるから、こういう調査はありがたい。軽作業だから報酬は多くはないけれど、少しずつ生活力を身に付けなくては。
まだ水が残って進めない地点までの地図を作製して内部の様子を文章にまとめて、探索組合に提出して解散。
「自警団に入団したら、頑張ってくださいね」
「任せてくださいよ! ってまだ先の話ですけどね! 俺、エリムレアさんの代わりになるように頑張りますから!」
「エリムレアさん、また一緒に探索できるときはお願いします」
「こちらからもぜひ!」
一人だと心細いし、逆に強い人とは気おくれしてご一緒しづらいから、良い出会いだった。
――本物のエリムレアだったら、彼らに色々教えていただろうか。
つい、
自警団はほとんど出払ってしまって宿舎はいつもより少し静か。まばらにいるのは市内の警備に残った自警団の小隊らしい。
作業前にお風呂に入って禊ぎをするのが、
出かける前にアイリスが机の上を綺麗に片づけておいてくれたので、そこに雑貨屋で買ってきた厚紙を置く。
さぁ、私がこの地へ来た理由、意味、それを形で表す時が来た。
型紙は幾度となく作ってきた猫のぬいるぐみを流用しよう。本当はぬいぐるみも作りたいけれど、まずはパペットだ。
いつもより大きめに描いた形をハサミで切り出して、スモノチの毛皮の裏に当てて耐水性のインクを付けたペンで写していく。
パペットだから足を作る必要はない。ぬいぐるみなら可動させるために手足にジョイントを入れるのだけど、今回は手袋状に指を入れる形にする。
……雑貨屋で買ってきた部品がジョイントの代用になるのかは、次の機会へ持ち越しだ。
とにかく、スモノチの毛皮が、今まで使っていた資材の代用になるのかを試してみたかった。
毛皮の裁断が終わり、いよいよ縫製作業。針も糸も太いし耐久性があるから革を縫うのには十分な強度だった。
縫い始めて気が付いたのは、エリムレアの目はとても良いということ。
……そういえば、先日の北ヨーン丘陵制圧の時に、遠くから戦況を見ていた時も、アイリスとスモノチを狩りに行った時も、とてもよく見えていた。
まるでズーム機能でもついているんじゃなかってくらい鮮明に。
作業の手を止め、立てかけてある銀色の剣を鞘から抜いてエリムレアの目を見る。
『はぁん、良い男……』
って、そうじゃない!
色こそ日本人と違うだけで、見た感じ普通の目……だよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます