第4話 制圧
大きい方の剣を持ってみると、鎧と同じくとても軽い。
「へぇ……」
鞘から抜くと、現れたのは鏡のような銀色の刀身で、そこにエリムレアの姿が映り、私は目を奪われた。
わぁ……
「……これは確かにイケメンだわ」
低い声でそんなことを呟いても気にならないほどの素敵な男性だった。
くすんだ金髪、いわゆるアッシュブロンドにアイスブルーの瞳で鼻筋が通っていて、なんて表現していいんだろう。ハリウッド俳優っていわれても信じてしまう。
正直言って好みのタイプ。ずっと見ていたい。私はこの姿がとても気に入った。エリムレアには感謝しなくては。
大葉ナズナは……とても平凡な顔だ。……がっかりされてしまうかなあ。
って、流されているけど私は当初の目的の「イケメンになって誰にも邪魔されずにぬいぐるみを作る」を早く遂行したい。希望通りの強いイケメンだし。
イケメンでイケボ。そしてこの鎧姿ってこともあって、中世を舞台にした映画の主人公みたい。
な……なにかこう、キュンとくるようなセリフ言ってもらいたい。え、えーと。
「君は俺が守る!」
っく~~~! 最高か。
「さぁ、この手を取って。これからはずっと一緒だから」
はぁ~~~
「エリ! 支度できた? 迎えにきたよ!」
「ヒョエーー!」
「何してたの?」
ノックくらいしてほしい……。めちゃくちゃ恥ずかしい。
「アイリスちゃん……」
「ちゃん?」
「えっと、アイリス」
「よし!」
部屋に入ってきたアイリスとキージェは、私とそんなに変わらない装備を身に着けて、二人とも腰に細い剣を下げている。
「え、魔導士と治癒士なのに剣持ってるの?」
「だって、戦わないとみんな死んじゃうよ?」
「ドラクエとか
「ドラクエ?」
「えふえふ?」
あっ、やば!
「えっと、その……夢! そう、夢で見たことだから忘れて!」
「アイリスは弓も使うよ」
「そんなに威力はないけどね」
ひょえ~……日本のゲームの常識は通用しないのか。
寄宿舎を出ると、やっぱり辺りは星明り。
「えっと、どこに?」
「まずはノイ
「ノイ?」
「ノイは大型の動物だよ。ノイに乗って現地へ行くんだ」
「えっ、乗れるかな……」
「大丈夫。ノイは背に乗せたものを落とさないようにする習性があるから」
大きさは馬と同じくらいで、キージェが鞍を付けてくれた。乗ってみるとアイリスに言われた通り落ちることは無さそう。
「進めも止まれも、思うだけで手綱から伝わるから大丈夫」
謎の安心感は、そういうところからなのか。乗り心地は悪くないどころか自転車よりも快適だ。
厩舎の周りを一周走って来たけど問題なさそう。
「乗り方は、体が覚えてるんじゃないか?」
「ふぅん……」
自転車も一度乗れたらあとは絶対乗れなくなることがないというし、そういうものだろうか。
しばらくすると、同じような装備を身に着けた人たちがやってきて、続々と厩舎へ入ってはそれぞれがノイに
「みんな自警団の人たちだよ」
「自警団……?」
「そ。小隊長はヨーン市の正規軍から派遣されてる人だけど」
「赤い腕章はヨーン自警団の証だから、絶対に外さないでね」
「わ、わかった」
「今日は少人数だと聞いてるからそろそろ出発だ」
ノイで走ること、体感で1時間くらいだろうか。ヨーンの北の丘陵地での暴動の制圧が目的だと、出発前に小隊長という人物が告げた。
「制圧って、なにするの?」
「力でねじ伏せる」
「反ヨーン政府組織だからね……気を付けて」
「え、戦うの?」
「そんなカッコで何すると思ってたんだよ」
「だ、だって……」
武器なんて、生まれてこの方振り回したことがない。
映画やゲームの世界だと思っていたことを、これから……?
「は、話し合いとか」
「……無理だろうな」
「ジャンケンとか」
「なんだそりゃ?」
「オセロは?」
「さっきから何言ってんだよ」
「あははっ、記憶はないのにエリから新しい引き出しがどんどん出てくる」
アイリスがすごい笑っている……。
「……頼むから二人とも真面目にやってくれよ」
目的地の丘でノイを降りると、互いに装備を点検してノイを預かる数人を残して歩き出す。
……私もここで留守番が良いな。
「エリ、ちょっと」
「ん?」
「こないだ、このベルトが壊れててさ……あの後、エリが寝込んでる間に自警団のほうで直してもらったけど、念のため」
アイリスがわき腹にある前後のパーツを繋ぐベルトを確認している。
「うん、とりあえず大丈夫そう。行こう」
丘の下の方に、人影がいる。あれが反ヨーン政府組織だろうか。
やっぱり相手も武器とか持ってるし、怖い。ほんとに話し合いで何とかならないの?
「照明を用意せよ」
「はっ」
小隊長の命令で、何人かが空に向けて手を掲げる。見ればキージェも構えていた。
「今日はエリムレア殿がいるから、我々は楽ができるな」
先頭の小隊長に声を掛けられたけど……なんだろう、すごい嫌味っぽい言い方。
「エリ、気にするな」
「僕たちが援護する」
「どういうこと?」
なんだか嫌な予感。
「小隊長殿はエリムレアの活躍が見たいんだよ」
横に立っていた男がにやにやしながらそう言って、私の背後に回り込んで背を押して走り出した。
「まって、もしかして」
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