第055話 煩悩との闘い

 溜まり切った熱が放出され、あまりの解放感に声が出てしまう。


「あぁ~」


 それと同時に頭と体の熱が引いていく。


「ヒール、ピュリフィケイション」


 魔法の呪文を唱える。


 このベッド全体から汚れらしきものや不浄なものを全て浄化してしまった。


「それでどういうつもりなんですか?」

「ふふふっ。だから言ってるじゃない。訓練だって」


 俺は真顔になって未だに俺の右側に張り付いてその豊満の体を押し付けているすみれさんに尋ねるが、彼女は相変わらず人を食ったような態度で答えた。


「これのどこが訓練なんですか!!」

「分かってるでしょ? 我慢よ、我慢。もっと本能をコントロールできるようにならないとね?」


 俺が小声で叫ぶと、やはりすみれさんは俺が起ちやすい体質だと気づいていたらしい。


 今回の睡眠訓練はそれをどうにかするために訓練だったようだ。


「そ、それがなんの強化につながるんですか!?」


 ただ、その体質をどうにかできたからといって強くなるわけじゃないし、体質や本能的な部分が早々変わるはずもない。


「君がその煩悩を抑えられたら全部一瞬で片付くでしょう? それに触れあっていたらなれるかもしれないじゃない」

「そ、それは確かにそうかもしれないですけど……」


 でも、俺はすみれさんの言葉に思わず言いよどむ。


「それなら強化と言えるんじゃないかしら?」


 しかし、すみれさんが言うことも一理あった。


 俺が主に力を出せないのは起ってしまって周りが気になったり、一緒に組んでいる來羽がエッチすぎて目が釘付けになってしまうことが原因だ。


 起つのをもう少し堪えることができるようになったり、女の子の体にもっと慣れていれば、彼女が引き付けている間にすぐに浄化できていた。少なくとも後手に回ることはなかったはずだ。


「でも、別に二人でこんな真似しなくてもいいでしょう?」

「別に強要してるわけじゃないわよ?」


 俺が咎めるような言い方をすれば、すみれさんは來羽の方に視線を向けた。


「うん、よくわからないけど、こうやってくっつくと泰山と仲良くなれるならもっと仲良くなりたい」

「ね?」

「確信犯じゃないですか!!」


 來羽から返ってきた言葉は明らかに何も分かっていない無垢な存在に知らないまま性的なことをやらせようとする大人の発想だった。


 思わず叫ぶ。


「静かに。特に卑猥なことをしてるわけじゃないんだから別にいいでしょ? それに泰山君だって満更でもないのは分かってるんだからね。このむっつりスケベさん」

「くっ」


 しれっとした態度で答えるすみれさんに何も言えなくなる。


 確かにすみれさんが來羽にさせているのは、俺にくっついて寝るというただそれだけのことだ。それだけ見れば何か疚しいことをさせているわけではない。


 俺が一方的に疚しさを感じているだけだ。


 それにすみれさんが言っている通り、彼女に怒りつつも超絶美少女と圧倒的美人に囲まれている状況は男としてそそられるものがある。


 それはどうしようもない事実だった。


「だから、おとなしく訓練を続けましょうね」

「うっ……分かりました」


 それ以上反論することができない俺は、それからも二人に挟まれて寝るという訓練を続けることになった。


 それから俺は幾度とのなく下半身のドラゴンに直撃するような二人からの猛攻に耐え続けた。


 俺が寝付くことが出来たのは五度ほど欲望を吐き出し、すっかり日も登りきった後になってからだ。


 その頃には來羽もすみれさんもきちんと寝ていない疲れから眠りに落ち、ただくっついているだけで俺の欲望を煽るような真似がなくなったおかげだった。


 寝ている二人に手を出してしまいそうになったが、賢者に突入した俺の良心が引きとどめ、なんとか意識を落とすことに成功したのであった。

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