退魔師になったのに相方の戦闘服がエロ過ぎて煩悩も祓えない
ミポリオン
第001話 スカウトされました
「えっと……帰ってきたのか?」
周囲を見回せば懐かしい光景が目に飛び込んでくる。そこは確かに俺が学校からの帰り道にたまに寄っていた関東の片田舎に在る公園だった。
制服のポケットからスマホをとりだす。
「2022年4月15日か。どうやら確かに神は約束通り、俺をきちんと元の時間と場所に戻してくれたらしい」
俺がなぜこんな風に風景や日時を確認しているのかと言えば、先程まで現実とは異なる世界、異世界リースガルドにいたからだ。頭がおかしいと思われるかもしれないが、それが事実なんだからどうしようもない。
実を言うと、俺はファンタジーよろしく異世界の神に召喚された。
なぜ召喚されたのかと言えば、俺が神官としてとんでもない資質を持っていたかららしい。
彼女が管理する異世界ではゾンビやゴーストと言ったアンデッドが世界中で蔓延っていて、人間を含むありとあらゆる生物が絶滅しそうになっていた。
神からリースガルドを救って欲しいと請われ、放っておけなかったため条件を付けてその依頼に応じた。
俺は数少ない人類が残された国に転移させられ、そこでアンデッドと戦う聖職者たちが集う教会にて修行を受けた。その結果、みるみるとその才能を開花させ、1年後にアンデッドから世界を救う旅に出た。
そして、旅立ちから実に5年という時を経て、最終的に
「この世界に残ってはいただけませんか?」
「いえ、お断りします」
危機的な状況は脱した上に、俺には日本でやらなければならない事があるため、かの世界の引き留める声を無視し、俺は今日懐かしき日本へと帰還を果たしたのであった。
神との契約で俺の年齢は転移した当時のまま。帰ってきたのも俺が転移した直後の時間、場所ということになっている。それは俺がスマホで確認する限り間違いなかった。
「家に帰ろう」
俺が跳ばされた時間は夕方。太陽が山に隠れ、もうすぐ日が暮れる。
時間は全く経っていないことになっているものの、俺の感覚では6年ほどが過ぎている。
6年と言えば小学生が中学生になったり、中学生が高校3年生になるくらいには長い時間だ。それだけの間故郷を離れていたという感覚なのでやっぱり家族に早く会いたかった。
幸い今日はたまたま掛け持ちしているバイトがない。そのため、急いで家に向かおうと歩き始める。
―ドォオオオオオオオオンッ
しかし、俺の歩みは予期せぬ出来事によって止められてしまった。すさまじい爆発音と共に俺の目の前に空から何かが飛来した。
「がはっ」
それは女の子だった。女の子はそのまま地面に背中から落ちて激突し、その勢いで息が押し出されて血を吐く。
その女の子は学校の制服を着ていて中学生か高校生であることが分かる。その至るところがボロボロになっており、体のあちこちから出血していた。
「お、おい、大丈夫か!?」
「離れて……」
無理やり体を起こそうとする彼女を放っておけずに駆け寄って体を支えるが、拒絶するように俺を手で突き放す。
「ハイヒール!!」
しかし、こんな酷い状態は放っておけないので、気付けば彼女に魔法を掛けていた。呪文を唱えると、彼女の体の傷はみるみるふさがり、綺麗さっぱり消える。
これで彼女のダメージは消えたはずだ。
「どうして……そんなことより……」
女の子は呆然とした顔で俺の方を見てきたが、我に返ってすぐに飛んできた方に顔を向けた。
「なんだあれ……リッチ?」
俺も釣られて彼女が見た方に顔を向ければ、異世界でリッチと呼ばれる霊的なモンスターに酷似した存在がこちらに、いや女の子を目指して飛翔して来ていた。
彼女を害したのが奴なら許すことは出来ないので浄化してみることにした。あいつがリッチと同じようなゴースト系モンスターなら効果はあるはずだ。
「ピュリフィケイション!!」
異世界で学んだ悪しき存在を浄化する魔法を放つ。
「グォオオオオオオオオ……」
俺の浄化は異世界の死の王をも滅する威力。あまり強そうじゃないリッチは一瞬で燐光となって空に昇って行った。
「凄い……」
少女はリッチもどきが消えていくのを見つめていた。
改めて見る彼女は黒髪をハーフアップにして眠たそうな瞳を持ち、整った目鼻立ちと、ぷっくりとつややかな唇をもつ美少女だった。
そんな彼女が無表情のまま、ふとこちらを見てくる。
「見えるの?」
「何が?」
彼女の短い質問の意味が良く分からずに俺は首を傾げた。
「さっきの怨霊」
「え? そりゃあ見えるだろ」
あんなにはっきりした存在が見えないはずはない。
「んーん、一般人には見えない」
「え!? そうなのか!?」
しかし、彼女は思いきり首を振って俺の言葉を否定する。俺は驚愕して聞き返した。
「うん。霊感が強い人じゃないと見えない」
「マジか……それって昔からいるのか?」
「うん」
彼女の言を信じるのならどうやらこちらの世界でも元々霊的な存在はいたらしい。転移前の俺にはそれが見えなかった。しかし、転移後の俺には見えている。
つまり、異世界でアンデッドモンスターと戦った俺は、いつの間にか霊感を身に着けたようだ。
「力を貸してほしい」
彼女は俺の手を掴んでギュッと握って無表情のままだが、真剣な顔で俺に懇願する。
「え、えっとどういうことだ?」
女の子の柔らかい手の感触に思わず前かがみになりながら聞き返した。
「私は悪霊を討伐する組織である退魔局所属の退魔師。あなたもそこに加わって欲しい。あなたの力が必要」
「そ、そうは言っても俺はバイトあるしなぁ」
そんなことを急に言われても色々と困ってしまう。
「学校の出席や単位も融通を聞かせられるし、依頼をこなせばお給料も出る」
「……ほう」
そういうことなら話は別だ。お金は大事だ。うん、とても。
「い、いくらだ?」
「このくらい」
「~~!?」
彼女はスマホの電卓を叩いて画面を見せてきた。
もし本当にそれだけもらえるならバイトを掛け持ちしなくてもいいし、俺の家族に贅沢させてやれる。
「来てくれる?」
俺の返事で興味を持ったことが分かったらしく、可愛らしく小首を傾げて俺に問う。一々俺を刺激してくれるじゃないか。
「きょ、興味はあるな。で、でも今日はもう遅いからまた今度でもいいか?」
「うん。私は
「分かった。俺は
今は家の事が心配なので、申し訳なさげにまた日を改めて話を聞けないか尋ねる。
そんな俺の事情を來羽は快く汲んでくれて、彼女は紙に携帯番号とトークアプリのIDを書いて俺に差し出した。
「それじゃあまた。今日はありがと。あなたのお陰で助かった。命の恩人」
「気にするな。たまたま居合わせただけだ」
「ふふっ。じゃあね」
メモを受け取り、照れ隠しに肩を竦めて答えたら、彼女はクスリと笑って去っていった。
それまでほとんど表情が変わらなかった彼女の微笑みは、とんでもない破壊力を秘めていて、俺を射殺すには十分だった。
俺は暫くその場から前かがみのまま動けなくなり、治まるまでそのまま立ち尽くしていた。
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