自由への憧れ

 いわゆる“まとも”に近づくたび、わたくしの中から何かが欠けてゆくような気がいたします。

 折角、曲げられなかったものを変形させてまで、まともに近づこうとしたのに、なりきれなくて悲しくなって、これじゃあ、あんまりではありませんか。

 不健康さからくる無数のアイデアは、所詮不健康なのでありますが、それでも人の心を突くものだったに違いないのです。わたくしはもうすっかり健康になってしまって、今朝は匙一杯の蜂蜜を舐められるくらいにまでなってしまって、なんだかつまらない人間に成り下がってしまったけれども、それでも依然まともとは言えずじまいの代物なのです。

 一体どうすれば、まともさんのお仲間に加われるのでしょうか。クソつまらないお話にウンウン相槌打ちながら、あら素敵ネなんてオホオホ笑っていれば、お仲間になれると。そう言うことでありましょうか。

 まるでごっこ遊びのようでございます。

 たまりませんね。ええ、たまりませんわ。

 不健全な健康がわたくしの身体をいぢめるんです。もうたくさん。つまらない人生なんて、まっぴらごめんなのよ。

 わたくしは旅に出たいの。自由を抱擁してみたいの。きっとあたたかくて、つめたい。


 誰にも引き留められない自由を愛しています。


 あなたは誰のものにもならない。勿論、わたくしのものにもならない。その気高さが好きなんですからね。ひらりと指の隙間を抜けていくような軽やかさが好きなんですからね。決してわたくしみたいに、つまらないものなんかに成り下がらないでね。

 たとえばまともに歪んだわたくしが、恨み言を呟いたとしましょう。だけどあなたは振り返らない。ただ前を向いて、走るだけ。

 そうして人が手を伸ばすだけ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る