第40話 学力王決定戦編② 滅多にないソロ配信

「はいどうも花依でーす。告知があるからソロ配信してみた」


コメント

・ソロ配信は……一ヶ月ぶりくらいか?

・最早挨拶が適当w

・花依で通りすぎたせいで、下の名前が消えとる

・告知……ふむ

・コラボで慣れてるから変な感じするな


 まあ、本当に久しぶりだからね。

 しばらくは二期生でコラボしたり、全智さんとのオフコラボばかりだったし。

 配信ペースも私の場合はそこまで多くない。コラボ相手の都合もあるし、コラボをする時には一応事務所通さなきゃいけないし。

 大人の事情ってやつだケド。


「折角ソロ配信したんだし、告知だけで終わるのは嫌でしょ? そんなわけで、溜まりに溜まった質問箱に回答していくよ〜」


 配信の話題がない時はこれに尽きる。

 質問箱。リスナーが質問を投稿して、配信者がそれに答えるという単純明快なシステム。

 もちろん、変な話題とかコンプライアンスに違反してる質問は弾いてるけど、それを突き破ってギリギリ攻めてる面白い猛者もいるから見ていて飽きない。


コメント

・質問箱か。普通の配信者っぽいな

・普通の配信者じゃなかったら何だよwww

・てぇてぇに全て賭けてる奴が普通とかw

・スペックも普通じゃないんだよなぁ


 まあ、私のスペックは地の才能と養殖だからね。

 声の性質とか、持って生まれた才能ってのは絶対に存在するし、変えられないことではある。

 けれども、それをどれだけ昇華できるか。

 自分ではデメリットだと思ってることも、視点を変えればメリットになるかもしれない。そんな思考で私は常に努力してきた。

 養殖は養殖でも高級養殖……みたいな?


「普通じゃない自覚はあるよ? リスナーの想像できる価値観を共有したところで飽きちゃうからねぇ。私は常にみんなの上を行きたい。いや、行く!」


コメント

・上昇志向やな

・こういう思考は見習いたい

・行動は見習えない定期

・つよい


「そんなわけで、どんどん質問に答えるよ〜」


 私はパソコンを操作して、質問を表示させる。

 もちろん、変な質問が出てこないように、事前に答える質問を選んでる。これだけ頑張ったのにBANされるとか報われないからね。


 さて、最初の質問がこれ。


ーーー

誰が本命ですか?

ーーー


「私が本命以外を堕とそうとしているとでも……?」


コメント

・草

・草

・それはそうw

・全員、って言ってるからなw

・常日頃からオープンに公言してんのと一緒


「中途半端な気持ちで堕とそうとしたことなんて一度もないよ。本命も何も関係ない。私が堕としたい、って思えるから堕としてるだけ。誰が? って言われたら、全員、って答えるしかないよね」


 それは私が立てた覚悟に背くことになるし、相手にも失礼。

 そもそも本気で堕とそうとしなきゃ堕ちない。そんなチョロいライバーは、肥溜めには…………ツナちゃんを除いていない!

 ツナちゃんもクラちゃんも、全智さんもまだ見ぬ皆も、私は全てを堕とす。覚悟は決まってるさ。


「はい、愚問だったね。次っ!」


ーーー

花×全推しです。

花×クラ推しと喧嘩してしまいました。どうすれば仲直りできますか?

ーーー


「箱推しになれば良いんじゃない?」


コメント

・草

・軽々しく推し変を勧めるなw

・全員好きになれば解決、ってそれは花依特有の思考回路だろw

・お前も来いよ……箱推しの世界へ。平和だぞ


 誰を推すかは人それぞれだし、好き嫌いだってあるのは仕方ない。推しが理由で喧嘩したなら、箱推しするか人の推しをバカにしないように心がければ解決すると思うけどな。

 

「さて、次」


ーーー

トマト

ーーー


「美味しいよね。次」


コメント 

・クソ質問で草

・なんでそれ選んだんだよw

・トマトオンリーは草


ーーー

てぇてぇエピソードをください

ーーー


 てぇてぇエピソードかぁ……。

 うーん、何かあったっけなぁ。


「全智さんとの話は筒抜けだし……。あ、ツナちゃんとお泊りした時に、朝起きたら抱きついて寝てた、って話でもする? もしくは、迷子になって半泣きしてたクラちゃんの話とか?」


コメント

・全部聞きてぇw

・内容が濃い

・何してんねんクラシー

・てぇてぇ

・てぇてぇ


 聞きたいんだ。

 別に日常の中での出来事だから、さして話題に取り上げることでもないと思うんだケド。

 スキンシップもこれだけ女子として過ごせば慣れるし、私からはあんまりしないけど、抱きつかれたりすることも多い。


 一々それで騒ぐ百合厨なんて──


 ────佐々木。君しかいない。


 あのイケメンはさておき、需要があるなら話すまで。


「そんな長い話じゃないんだけど、ツナちゃんの出来事は、単純に一緒の布団で寝ただけだよ? 客間は寒かったし、顔真っ赤にして『い、一緒に寝ます……!? ……か?』とか言うもんだから。緊張してカチカチになってたツナちゃんを置いてさっさと寝たよね。で、気づいたらツナちゃんのおっぱいに埋もれてた。以上」 


コメント

・オチが雑だけどてぇてぇ

・なんかその様子が見えるわwww

・てぇてぇな

・これ、ツナマヨの方が身長高いのてぇてぇだよな 

・気弱ネタ枠コミュ障の方が身長高いのエモい

・てぇてぇ


 何やらコメントが盛り上がってた。

 需要と供給の関係が上手く満たせたらしい。

 私と誰かの絡みがあれば何でも良いんじゃないの? どで思ってきたよ、最早。


「それで、クラちゃんの話ね。普通に行きつけの喫茶店に行こうとしてたら、見覚えのある人がいるもんだから驚いてさ。そしたら案の定道に迷ったみたいでフラフラしてた半泣きのクラちゃんがいたの。携帯握り締めながら誰かに電話かけたみたいなんだけど、その瞬間私の携帯鳴ったよね。で、話しながら近づいて耳元で囁いたら崩れ落ちてた。あとは一緒に喫茶店でお茶して帰ったよ」


コメント

・てぇてぇわ

・これで百年頑張れる

・どんだけ方向音痴なんだよw

・クラシーも何だかんだネタ枠

・ピンチになった時に花依に電話するのてぇてぇわ

・半泣きなのポイント高い

・花依がいる、って分かってるから少しだけ心に余裕があるてぇてぇ

・素晴らしきてぇてぇ

・サラッと耳攻めするなw


 再び盛り上がるコメント。

 私はふむ、と頷きながら、私とリスナーの認識の差を理解した。

 私にとって何気なくても、リスナーからしたらてぇてぇ判定になるんだね。所謂日常てぇてぇってやつかな?


 全智さんと触れ合いすぎててぇてぇの価値観バグってたかも。

 だって、全智さんなんて全自動てぇてぇ製造機だからね。


コメント

・漆黒剣士ツナマヨ『そんな事実ないですぅ……!』

・クラシー『忘れてちょうだい』

・二期生もよう見とる

・顔真っ赤にしてるの見えたw

・配信てぇてぇやな

・何でもありやんw


「あはは、勝手に話してごめんね〜。──と、そろそろいい時間だね」


 色々と話していたら、配信予定時間を越しそうになっていた。長々やると同接減るし、告知をしようかな。


「じゃあ、告知するね」


 私はパソコンを操作して、配信画面にドドーンと『学力王決定戦』とデカく書かれてある画像を映し出す。


「二週間後に、肥溜め初となる箱コラボの学力王決定戦が公開されます! 臨場感を演出するために、生配信で行う予定です! 欠席者二名! 天使さんは音沙汰なし! 全智さんは、別枠で実況をしてもらう予定です!」


 私の告知と同時に公式サイトでも告知されるようになっている。

 すでに私以外の参加者は同意済みで、マネージャー間で打ち合わせというか概要を説明されている。

 天使さんが来ることはあり得ないとして、全智さんが企画に前のめりなのは驚いた。

 参加しないにしろ実況。しかも、自分から打診したらしい。

 私、全智さんの成長に涙腺崩壊しそう。


コメント

・うおおおおおおぉぉ!!

・箱コラボきたァァァァァァ!!

・楽しみすぎる!!

・神回やん……

・これを生配信でやるのかwww

・天使は……うん、無理やな

・全智実況ってマ!?

・我関せずの姿勢だった全智が……


 コメントの盛り上がりも最高潮で、多分一時間後にはツニッターでトレンド入りも果たしているに違いない。


 かつてない規模で行う大イベント。

 絶対に成功してみせる。


 私が愛した肥溜めのVtuberたちとともに。

 


ーーー

前座は終了。

次から諸々の色々です。

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