第24話 ツナちゃんの年上(?)人生相談
ツナちゃんとのコラボはつつがなく終わることができた。
落ち込んでることを誰にも悟られずに、いつもの私を演じることができたと思う。やっぱり演技力が物を言うね、うん。
……はぁ〜、いつまでも落ち込んでるわけにはいかないけどさ。どうしようもない現実なんて久しぶりに味わったよ。
努力したことで全てを解決できる、なんて思ってたけど、人の心を甘く見すぎたんだろうねぇ。
「お疲れツナちゃん」
「あ、お疲れ様です、花依さん。あ、あのぉ……もう少しだけお話ししませんか……?」
「え? 配信するってこと?」
私は思わぬツナちゃんの提案に面を食らう。
いつもなら精神力を消費しすぎて呻きながら通話を切るんだけど……珍しいね。
でも、さすがに二つ目の枠を取って配信するのは乗り気になれない。
「い、いえ、そうではなく。配信関係なしに少し話したいんですよ」
「へぇ、珍しいね。そんなこと言うなんて。ツナちゃんもデレ期かな?」
冗談めかして言うけど、今の私は気丈に振る舞うだけの元気はない。いつもなら即答でイエスと答えるところだけど、このままじゃボロを出してしまいかねない。
「えっと、そのぉ……なんて言いますか……!」
「なになに? なんか悩みでもあるの?」
自分の悩みを棚に上げて問いかける私だが、そこで思わぬ反撃を食らう。
「な、悩みがあるのは花依さんなんじゃないですか……!」
「え、私?」
「今日、元気がないようでしたので! そうかなと!」
私は息を飲む。
まさかツナちゃんにバレるとはツユにも思わなかった。人の感情を察することが得意といっても、私は完璧に声音をコントロールしていたはず。
……いや、もしかしたらいつもの私と違ったことをしていたのかもね。それを見つけるツナちゃんもすごいケド。
「……うん、まああるけどね。というか、悩みのない人なんていないんじゃない?」
「花依さんは悩みがなさそうな人なので……」
「馬鹿にしてる???」
「ち、違いますぅ。悩みなんて全部粉砕して前に進みそうというか、なんというか……!」
「あはは、そうできたら良かったんだけどねぇ」
上手くはぐらかそうとしたけど、ツナちゃんの言葉で軌道修正を計られた。無意識なんだろうけど、どこなくムカつく。
乾いた笑みを浮かべた私にツナちゃんは遠慮がちに。けれども、強い声音で言う。
「ど、どうですか? 年上の私が相談に乗るとか……!」
「頼りにならない年上だなぁ」
「うぐぅ……全く持って事実なんですけど、少々言葉の刃が鋭すぎでは!!!」
「冗談だって。……気持ちはありがたいけど、私の事情にツナちゃんを巻き込むわけにはいかないから」
私はツナちゃんの厚意をやんわりと断る。
結局、私から始めたことであって、そこにツナちゃんを巻き込むわけにはいかない。
これは私一人が解決しなきゃいけない……って考えはちょっと危ないけども。
私の冷静な部分が意見を真っ二つにする中で、ツナちゃんが言った。
「そ、その悩んでることって、クラシーさんについてですか?」
「なんで……」
「今日、いきなり連絡が来たんです。曰く迷ったと。四苦八苦しながら家に帰すことはできたんですけど、普通なら花依さんに頼みますよね? と思って」
「そっか、帰れなかったんだ、あの場所から……」
忘れてた。
ツナちゃんよりもクラちゃんの方が方向音痴だった。大通りから外れたら迷うもんね。さすがにあの状況で思いつかなかったし、拒絶した後に「道に迷ったわ。助けてくれないかしら」なんて言うわけないよね、そりゃ。
「もし良かったら聞かせてくれませんか? 詳しくなくていいんです。どういうところに迷ってるか、とか。た、頼りにはなりませんけど、私にも年上としての意地がありますから!」
微かに震えた声に含まれた強い決意。
辿々しくて、どこまでもツナちゃんらしい言葉は……不覚にも私の心に響いてしまった。
「ごめん。ありがとう。ちょっと聞いてもらってもいい?」
「もももも、もちろんです……!」
「不安になってきた」
「ですよねぇ!」
☆☆☆
少しの時間をかけて、私はポツリポツリと語った。
全部は言えない。けれど、ツナちゃんは相槌を打って「ゆっくりでいいんです」と聞いてくれた。
「──ということがあったんだよね。……まあ、私が焦りすぎて深入りしたのが悪いんだけどね」
私は自嘲げに呟く。
話してスッキリ、とまではいかなくてと心の重荷は少しだけ軽くなった。
口を挟まず、ただうんうん、と聞いてくれたから心地よかった。ツナちゃんは聞き上手の才能があるのかもしれない。
「なるほどぉ……人間関係がゴミクズな私にはとことん無縁な悩み……!」
「自嘲したのにそれを超えるネガティブさを見せつけてくるのやめてよ」
「なにせ同期以外にお友達がいないもので!」
「元気に言うねぇ……」
ネガティブなのにしっかりと私たちを友達認定しているのは、ツナちゃんなりの成長だろうか。本気で言ってくれているのが私にとっては救いだよ。
軽く笑って外を見る。
すっかり暗くなった真夜中に、私の心は意に反して鬱屈としたものに覆われる。
「やっぱりお節介なのかなぁ、私」
頬杖を突いて言ったそのセリフに、ツナちゃんは今日一番に意思を持った、そして優しい声で言った。
「はい。花依さんはお節介ですよ」
「……っ、だよね」
「勘違いしないでくださいよぅ。花依さんはお節介ですけど、それが花依さんじゃないですか! どこまでも世話焼きで優しくて、細かく人を見る。花依さんのお節介は嬉しいんです。優しいんです」
「ツナちゃん……」
あれだけ自分の意見をハッキリ言えなかったツナちゃんは、一切の動揺も恐れもなく話している。
その声には慈しみだとか、私に対する信頼が感じられた。
……どうしてそこまで私を信じるんだろうね。
魅力は、ある。努力もしてきた。
でも、誰かを救ったことはないから。
それが人にとって救いなのか、迷惑なのか。
今一分からない。
「私はずっとコンプレックスだったんですよ。妄想癖ってやつが。自分の意思じゃどうしても止まれなくて。誰かに馬鹿にされ続けて。親だって胡乱な目で私を見ていました。
花依さんだけだったんです。面と向かって、嘘も嘲りもない純粋な瞳を向けてくれたのは。
──私は花依さんに救われたんですから」
「……っ。私が誰かの救いに……?」
危なかった。
もしもテレビ電話で話していれば、とてもじゃないけど見せられない表情をしていた。
ツナちゃんと同じで、私は誰かに肯定してほしかったのかもしれない。認められなかったのかもしれない。
ツナちゃんは最後にこう締めくくった。
「だから──勇気を持って、全力でお節介してください」
強い意志の点った言葉に──堪らず私は吹き出した。
「ぷっ、全力でお節介ってなにそれ! あはは!」
「えぇ、ちょ、笑うことないじゃないですか!」
「あはははは!!!!」
「花依さああぁぁん!!!」
「あははははははは!!!!」
ありがとう、ツナちゃん。
私は全力でお節介するよ。
きっと助けを求めているクラちゃんに。
ラジオの時に浮かべた笑顔。楽しいって言ってくれたその言葉に嘘はないって信じてるから。
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