第15話 二期らじお!②
「みなさんこんにちばんわ! 始まりました『二期らじお!』。司会は
いよいよ始まった『二期らじお!』は私のちょっとした冗談から幕開けとなった。
事前台本は皆無に等しいけど、何だかんだ配信になったらコミュ力が上昇する二人に期待したい。何かあったら私がカバーすればいいしね。
収録室にはマネージャーとスタッフ数名がいる。
テレビの収録のようで少しワクワクする。
「ひぇ、飛ばされた……!?」
「同じ二期生をその他扱いするのはどうなのかしら」
「はははっ、冗談だって。はい、ツナちゃんとクラちゃんです」
「雑ぅ!? に、二期生の漆黒剣士ツナマヨですぅ……」
「同じく二期生のクラシーよ」
パラパラと拍手が外野陣から鳴り響く。
こういう緩い雰囲気は結構好みだなぁ。リスナーも寝っ転がりながら是非とも聞いてほしい。
「いやー、始まったね。どう? 二人とも緊張してる?」
タイトルコールも終わり、オープニングトークに移る。
私はまず、ガタガタ震えているツナちゃんと泰然でいるクラちゃんに視線をやる。
「み、見ればわかりますよねぇ……!?!?!?」
「うーん……論外!」
私は涙目で震えるツナちゃんをチラリと一瞥すると言い切った。
そしてツナちゃんはいつもの叫び。
「ひどい!!」
「あたし、緊張していないツナマヨさんを見たことないわ」
「クラシーさんまで……!?」
「デフォで緊張って、とんでもないデバフ抱えてるよね」
「好きで抱えてませんがぁ!!」
「さてさて、ツナちゃんイジリもここまでにして次のコーナー行くよー」
弱々しい目つきで睨むツナちゃんだが、眼力が弱すぎて可愛らしく見つめてるようにしか見えないなぁ。
「ほらほら、ツナちゃん。私に見惚れないの」
「見惚れ、見惚れ……見惚れてませんが!」
「いや、本当に見惚れてたんかい」
軽く呆れながら良い玩具になってくれるツナちゃんから目を離す。
「次は、フリートーク……ってさっきと変わらなくない?」
すると、ニヤリとクラちゃんは私に視線を合わせて言う。
「つまり?」
分かってるじゃん、クラちゃん。
つまり──
「ツナちゃんをイジれる……??」
「やめてくださいよぉぉ!!」
室内が笑いに包まれる中、私たちのコラボは成功の切り出しを見せた。
☆☆☆
フリートークはツナちゃんを弄りつつ、均等に話題が行き届くように司会の私が上手く工夫した。
思うようにいかないことが常だから、何かしらのトラブルが起きるかなぁと身構えたけど、ツナちゃんとクラちゃんとのトークがテンポよくいったお陰で、今のところは順調だ。
「──で、トイレに引き籠もってたツナちゃんが『花依ひゃあああん!!!』って出てきたんだよね」
「今の似すぎる声真似いります!?!? あと、私そんなんだったんですか……??」
「あれは見るも無惨だったわ。後ろにいる私のことも見えてなかったんじゃないかしら?」
「うっ、だって花依さんが壁ドンとかしてくるのが悪いんですよぅ」
「呆気なく堕ちて腰砕けになってたのはどこのどちらさんかなぁー?」
「そんなやり取りを蚊帳の外で見せられていたのは誰だったかしら」
「「すみません……」」
途中でクラちゃんの存在を忘れてたのは悪いと思ってる、うん。ちょっとね。ツナちゃんがチョロいのが一番の原因だと思うんだよ。
私は悪くない!!
「まあ、総合してもクラちゃんツナちゃんの二人が道に迷ったのが全ての理由じゃない?」
「「うぐっ」」
「いや、このラジオが始まる前も結構引き合いに出してたんだけど、案内してる時もふらふら違う方向に歩いてたじゃん? 気分は犬の散歩だったよ」
「あながち否定できないのが悔しいわ」
「犬……花依さんの犬……」
「ちょっと良いって思ってない?」
「いぇ、ぇ、いぇ! 思ってませんとも、はい!」
少し頬を赤らめて別次元に旅したツナちゃんを呼び戻す。指摘すると大げさに否定してきたが、あれは認めてる反応でしょ。
へぇ〜、犬、ねぇ?
ツナちゃんがドM気質なのは……まあ、接すれば分かるけど私は別にドSってわけじゃないし。振る舞うことはできるし、それなりに楽しいけどね。
演技を勘定に入れるならSでもMでも自由自在だよ。
「ツナちゃんはとりあえず放っておいて次のコーナーいくかぁ」
「次は質問コーナーだったかしら?」
司会の私を立てるようにクラちゃんが言ってくれる。
「そう! リスナーから事前に集めた質問を厳選したよ」
いよいよきたか、と私を除く二人は微かに緊張を浮かべる。
なにせこれまではある程度の道に添って話してきたが、質問は完全に初見。
新鮮さのためだとかマネは言ってるけど、結構難しいの分かってるのかねぇ……。私たちデビューしてから一ヶ月も経ってないんだけど。
ちなみに私もしっかり初見である。
さっきスタッフから手渡されたのは、質問の紙が入っているだろうボックス。随分アナログだなぁ……。
「質問……私なんかに来ます……??」
「慰めてあげる」
「来ない前提なのね……」
心配げなツナちゃんだけど、その可能性はないと思う。
厳選してるのはスタッフだし、撮れ高的に必ず全員分の質問は入ってるだろうし、全員に対する質問も多いはず。
あとは司会の私がどれだけ回せるかって話だね〜。
「それじゃあ、早速……ほいっ。『初めてオフで会った時の印象は?』だってさ」
その質問に私たちは少し考えると、意外なことにツナちゃんが真っ先に答えた。
「えっと、花依さんは救世主。クラシーさんは傍観者です」
「だろうね。場所が場所だもん」
「見ることしかできなかった私への当てつけかしら?」
「目が怖い……っ! ち、違うんですよ。じょ、状況的にそう答えるしかなかったと言いますか……!」
しどろもどろに言い訳するツナちゃんをジト目で見る。
とことん墓穴掘るなぁ……。わざとじゃないかと勘ぐってしまうけど、反応を見ると本気で言っているのだから面白い。
「じゃあ、次クラちゃん!」
「そうね……花依さんは救世主で、ツナマヨさんは憐れ? かしらね」
「ちょっと、待って。なんで私、救世主固定なの???」
「だって、状況的にそうだもの」
「だけどさぁ……どっちも大したことしてないんだけどなぁ」
一応ナンパされたことはボカして、私がクラちゃんを助けた程度の情報をフリートークの時に出した。無いとは思うけど特定されたら困るからね。
だとしても、その状況に陥れば誰もが助ける程度のことしかしてないし、ツナちゃんに至ってはただ迎えにいっただけなんだケド。
そんなことを思っていると、ツナちゃんが戸惑いながら叫ぶ。
「え、これ、私の憐れって印象はスルーされるんです!?」
「憐れ以外に何があるの、逆に」
「妥当だと思うわ」
「私の扱い酷すぎませんか!!」
今更じゃん。事実しか言ってないし。
イジられるのが嫌いならここまで酷く言ってないけどさ。ツナちゃん、鼻ヒクヒクさせて喜んでるじゃん? 多分長年構ってもらえなかった弊害なんだと思うけど、人って簡単に
言わぬが花だよ。
「ちなみに私が思った印象はねぇ……クラちゃんは爆弾兵器」
「ちょっとどこ見てるのかしら」
「おっぱい」
「そこは隠しなさいよ!」
大声を出してサッと胸を隠したクラちゃんが若干距離を取る。
逆にエロいよ。
クラちゃんのアバターは青髪ロングの爆乳美少女だから、ここで大っぱいについて言及しても問題はない。
「ツナちゃんはふにゅん」
「全部特定部位じゃないですかぁ!!」
「安易に抱きついてきたツナちゃんが悪いと思うよ。私何もしてないもん」
ギャーギャーと騒ぎながらも笑う私たち。
羨ましがるといいよ、リスナー諸君。
さて、次いこう。
「それじゃあ、次。『私は箱推しなのですが、この度花依何とかさんのせいで単推しになりそうです。どうすれば良いでしょうか』。これ、私への質問だね」
うーん、そうだなぁと思案する。
答えはすぐに出た。
「私推せば箱推しになるよ。全員堕とすし。あと名前覚えろ」
「酷い暴論を見た気分だわ……」
呆れを含ませた視線で私を見るクラちゃんと、如何にも口笛を吹きそうな格好で視線を逸らすツナちゃん。うん、君もう堕とされた側だもんね。何も言えないよね、そりゃ。
「サクサクいくど。『クラシーさんの魔王を聴いてから毎日聴いていないと体が震えてきます。どうすればよろしいでしょう』だってさ、クラちゃん」
「これ思ったのだけれど、質問じゃなくて相談じゃないのかしら」
「細かいことは気にしたら負けだよ」
私もそう思うけど、そういうもんだと割り切れば別に大した感情は湧かない。
「はぁ……知らないわよ。ずっと私の演奏を聴いていたら良いじゃない」
「ははは、大胆だねぇ!」
「こく、はく!?」
私とツナちゃんで囃し立てると、微かに頬を紅潮させたクラちゃんが否定する。
「そういう意味で言ったわけじゃないわよ」
「そうそう、クラちゃんは私のだからね」
「あなたのでもないわ」
ほほほ、いずれ堕とすから覚悟しておきな〜。
今はまだその時じゃないからねぇ。
話していて分かったけど、クラちゃんは腹になにか一物を抱えている。私にはまだそれを明らかにさせることはできない。ピースが揃ってないから。
……これは初めて壁にぶつかりそうだ。
──と、今はラジオ中だ。
「じゃあ次〜。お、良かったねツナちゃん。『コミュニケーションが苦手です。緊張せずに人と話すにはどうしたらよいですか。ツナマヨさん』」
「わ、私に聞きますぅ!?!? えと、何を言ってもブーメランとなって私に返ってくるのですが! どう足掻いても被害を受けることが決定事項なのですが! というか、そんな方法あれば私が知りたいですよおおおぉ!!!」
意地悪な質問に、ツナちゃんの魂の叫びが響く。
せつない……悲痛な叫びだよ。
「どんまい(笑)」
「口でかっこわら、と言うところに悪意が籠もってるわね」
「ぜー……ぜー。コミュ障治したいっっ!」
「内輪で話せるなら良いじゃん。そうやってしっかりと我を出して話せてることは尊敬してるよ」
髪を耳にかけながらふんわり笑ってツナちゃんを見る。
案の定、ボッと顔を赤くしてニマニマしながらきょどるツナちゃん。
「うぇっ、ええとその……ありがとうございます……は、恥ずかしいっ……」
「ちょっろ」
「何回引っかかるのかしら」
「えぇ!? 今の嘘なんですかぁ!?!?」
「本当だけど秒で絆されるあたりチョロいなとは思ってる」
「うぐぐ……嬉しいと思ってしまう私が情けないですぅ!」
クラちゃんはもとより、ツナちゃんに関しても私は色々と認めている。
人間性だったり、配信者としてだったり。基本的にツナちゃんへの好感度は高い。可愛いし、それでいて年上なのがたまらない。
もし高校の先輩として出会っていたら、間違いなく私はグイグイ攻めて堕とす自信がある。
なんて想像をしていると、スタッフさんから『そろそろ時間です』とのカンペが出された。
私は微かに頷いて締めに移る。
「まあ、そんなわけでね。二期らじおだけど、そろそろ終わりの時間がやってきました。どうだった? 二人とも」
「ひたすら恥辱を味わいました」
ツナちゃんが即答した。でしょうね。
「コラボそのものが初めてだったけれど、存外楽しかったわね。またやりたいわ」
「おぉ、それは良かった。……私も楽しかったよ。こんな機会を与えてくれたマネとスタッフさんには感謝だね。それじゃあ、二期らじお! は終わり! みんなありがとねぇ〜」
「あ、ありがとうございましたっ!」
「ありがとう」
そんなこんなで私たちの初めての二期生コラボは幕を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます