第1話 一の男

一の男は、いつも通りの行いをしてから、

噴水の前を通り、

フルーツと札束が入った紙袋を抱えながら、

病院へと向かう。

愛する彼女の、臓器が先日見つかったと

医師から報告を受けたからだ。

一の男は、

それはもう側から見ると

嬉しそうな様子で歩いていた。

ステップを刻みながら、靴を鳴らしながら

街行く人は、その人を見て足を止める。

一の男が滑稽に見えたわけだからではない、

ただ、足を止め、

重力に負けそうな瞼を開き、

チープな演奏を聞き流している

耳を傾けざるを得なかったのだ。

それほど、一の男が出した音は、

歓喜で塗装されていた。

それも、塗りたてのペンキのようなものだ。

だからなのか一の男を見たものは、

どことなく足取りが軽くなっていた。

街中で猫の昼寝を見た時のような

気分に包まれていた。


けれど、その一の男は、刺された。

今度は、悲哀が塗装された。

またしても、

塗りたてのペンキのようなもので。

だからなのか、一の男を見ていた民衆は、

しばらくの間固まっていた。

それもそうだ、歓喜のペンキが、

まだ乾いていなかったのだから。

そして、乾いた瞬間民衆は、

悲鳴をあげながら去るものもいれば

涙を出し腰を抜かすものもいた。

だが、一の男を刺した男は、

ただその場を去った。

紙袋に入った札束が見えたにもかかわらず

それを取らずに、その場を去った。

その後、一の男が愛する彼女は、

その紙束に入った金は、

一の男が足を引き摺りながら

病院に届け、メモとともに看護師に渡した。

その女は、助かった。

それを聞く前に一の男は、

その病院から姿を消し、

噴水の底で、見つかった

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