第2章 姫君の願い
第4話 烏和里の館
現代っ子の
「見えてきたぞ、あれが
「烏和里の国……」
これまで進んできた道には田畑が広がり、時折作業する人々の姿を見てきた。その長閑な風景とは打って変わり、城下町は賑わいを見せている。
「うむ。町は変わらないようだな」
「
「そうだ。光明同様わしに仕えてくれている男にな、一任してある」
「へえぇ」
バサラの感心した声が前から聞こえてくる。彼は出会って間もないにもかかわらず、信功を名前で呼ぶほど親しくなったらしい。
そんな人懐っこさを持つ幼馴染を見て、
「どうかしたのか?」
「いえ……。ただ、バサラは何処にいてもばさらなんだと思っただけですよ」
「……そうか」
それから館に到着するまで、
彼らの前では、こちらも何処か似た者同士のバサラと信功が馬上で喋っている。それは馬を下りるまで続いていた。
「お帰りなさいませ、お館様」
「お帰りなさいませ」
「ああ、留守をすまないな」
「とんでもございません」
留守を守っていた家臣や侍女等、様々な人たちが信功たちを迎える。彼らは一様に安堵の表情を浮かべ、深々と頭を下げていた。
仕える人々は皆、信功を慕っているのだろう。それは
「……なあ、オレたちとんでもない所に来ちゃったんじゃないか?」
「今更か? でも、もう引き返せない」
「だな」
信功と光明に挟まれ、
やがて四人は館の奥へと進み、すれ違う人の数も極端に減った。男よりも女の数が多いくらいか。
光明によれば、館の奥は主の私的な空間だという。家臣の中でも一部の者しか、この区画に入ることは許されない。
その話をした時、光明の顔は心なしか誇らしげだった。
「お館様ー!」
「おおっ、
「勿体無きお言葉でございます!」
「……騒々しいな、克一」
「お前は変わらず無愛想だな、光明。少しくらい笑え」
「笑う領分は、お前に任せてある」
「そうか? はははっ」
克一と呼ばれた男は、四十路頃と見えた。信功と同年代なのかもしれない。
大口を開けて笑った克一は、呆然と自分を見上げる二人の少年に気付き、首を傾げる。大柄な彼の顔に、きょとんとした表情が浮かぶ。
「して、お館様。彼らは?」
「
「そうでしたか」
克一は合点がいったという顔で何度か頷くと、少年たちの前に腰を下ろした。百八十センチはありそうな巨漢が、驚く二人にニッと笑いかける。
「我が名は克一。怪我により戦場に出ることは叶わんが、館を守る役割を仰せつかっておる。お主らの名は?」
「オレは武藤バサラ」
「おれは東郷
「します!」
克一は二人の顔を交互に見て、それから名前を口の中で復唱した。そして、
「わかった。克一、光明、この二人の部屋と食事の用意を頼む。食事はわしと一緒だ」
「承知致した!」
「承知致しました」
克一と光明がその場を立ち去ると、急に廊下が静かになる。
三人の会話を聞くしかなかった
「え。お館様、おれたちここに泊まらせて頂いて良いんですか?」
「良いもなにも。お前たち、ここ以外に行くところがあるのか?」
「……ありません」
「なら、問題なかろう」
「だってさ! よかったな、
「でも、ご迷惑では?」
嬉々として泊まろうとするバサラとは反対に、
「お前は、本当に若い頃の光明と似ている。遠慮しなくて良い。それに、我が娘が何処かから呼び寄せたのだろうから、うちで面倒を見るのは当たり前だ」
「光明さんと、おれが?」
「そうだ。機会があれば、あやつに訊いてみよ」
さあ、行くぞ。それ以上の反論を許さず、信功は颯爽と廊下を歩き出す。
「ほら行こうぜ、
「痛っ! ああ、そうだな」
バサラに背中を叩かれ、
信功とばさらに置いて行かれそうになり、武士は慌てて二人を追った。
館の更に奥、小さな庭を横目に進む。庭には巨木が生い茂り、木の傍には小川が流れている。
幾つかの部屋を通り過ぎ、信功たちは老女が戸の前に待機する部屋の傍へとやって来た。
「ご苦労。和姫はいるか?」
「お館様、お帰りなさいませ。ええ、こちらに」
「承知した」
老女が下がり、信功は戸の外から話しかける。
「和、わしだ。気分はどうだ?」
「……父上? 戻られたのですね。どうぞお入り下さい」
「うむ」
和姫の許可を得、信功は襖を開けた。そして
「どんな人なんだろうな、和姫って人は?」
「さあ……。でもきっと、おれたちが会うべき人なんだろうね」
声を聞くだけで、
か細くも優しい声色の姫は、父が
すぐさま、信功が襖の外に顔を出す。
「二人共、入れ」
信功に手招かれ、
「失礼致します。──っ」
部屋に入った途端、
夕暮れに沈みかけた部屋には、
布団から上半身を起こし青い顔をしているため儚げな印象が強いが、真っ直ぐに伸びた背中が彼女の心の強さを物語る。更に
水色の目が
無意識に足を止めていた
「おい、
「あっ……ご、ごめん」
「いや。初めまして、お姫様」
「あ、初めまして」
「初めまして、ではありませんよ。ようこそ、異世界から来られた方々」
にこりと微笑んだ姫君が、
「わたくしは、
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