転生令嬢と、その家族

千子

第1話 転生しても家族は大切に。

目が覚めたら知らない天井だった。


私の目が覚めるとわかると握られていた手に力が入り「シャルロット!」と名前を呼ばれる。


シャルロット、は多分私だろう。


くるりと見渡せば心配そうな多分両親と兄?と使用人風の方々。


もう一度気遣わせにシャルロットと呼ばれ「大丈夫です」と返すのがやっとのこと。




いや実際はなんにも大丈夫じゃないんですが!?


なにこれシャルロットって誰!?まじで私!?


中世ヨーロッパに心当たりのない人生なんですが!!!


でも、何がどうしてこうなってるのかなんて転生もの読み漁ってた私にはピーンときた。


多分、私はシャルロットとして転生?した。本物のシャルロットどこいった?


えっ、死んじゃったの?まじ?


自分の手を見るとまだ幼いのがわかる。


こんなに小さくして亡くなったのか、私の意識が入り込んで実際はシャルロットちゃんの存在は私の中にあるパターンか…どちらにしても可哀想過ぎる…現在、私の中にシャルロットちゃんは感じられない。


そして、私が言わないとこのシャルロットちゃんのご家族はシャルロットちゃんとして私を育てるだろう。


私はシャルロットちゃんではないのに。


でも、あなた方の娘さんは亡くなって代わりに私が転生して肉体乗っ取っちゃいました☆もかなり問題がある。


どうしたものか…と悩んでいるとまた頭痛がしてきた。




私の不調に気が付いたのか(多分)お母様が「まだよろしくないようだから寝ていなさい」と布団をかけ直してくれた。えっ、マッマすき。優しい。


多分だけど、シャルロットちゃんは大切に可愛がられてきたんだろう。


それなのに急にあなたの娘は存在しません。中身は別人ですと言ってもいいものかどうか。


シャルロットちゃんを心の底から心配してくれるこの人達を悲しませないために、どうするのが最善なんだろう。




くるくる回る思考の渦に巻き込まれてまた意識を手放した。








結局、起き上がれるようになった日の全員揃ったディナーで告白した。


私は嘘がつき続けられる性分ではないことと、シャルロットちゃんではないのにシャルロットちゃんとしてこの人達と接せないと思ったからだ。


私は、シャルロットちゃんの家族ではない。


私は、シャルロットちゃんの家族になれない。




最初は熱で見た夢の話だろうと信じて貰えなかったが、誠心誠意話をした。


おじさんはずっと厳しい顔で黙っている。


おばさんは耐えていたようだけど静かに泣き出した。


お兄さんはどうしたらいいか分からないようで、珍妙な生き物を見るような目付きでいる。




「シャルロットは死んで、君が娘の体の中にいる。その言葉に相違ないか?」


おじさんが厳しい目で訊ねてきた。


「はい。多分間違いありません。私の中にシャルロットさんは現在感じられません」


「そうか………」


厳しい顔のまま、長いため息を吐いた。


「君に二つの選択肢を与えよう。シャルロットは死んだものとし市井で平民として生きるか、『シャルロット』としてこの屋敷で生きるか」


「それは………」


シャルロットとしてこの屋敷で生きるということは、だからといって娘として扱うということではないということだけはわかった。多分、政治の駒として扱うということなんだろうなと思った。政略結婚とか。娘はシャルロットちゃん一人だし。


前世が平民だからといって、いきなり見知らぬ世界で頼れるものもなく生きていけるとは思えない。


浅ましいと思われても、私は『伯爵令嬢のシャルロット』になった。


伯爵からは自分達のことは両親と兄として扱うようにと言われた。


最後に一言「申し訳ありません」と頭を下げて謝った。


故意ではないにしても娘さんを奪ってしまって本当に申し訳ありません。


せめて『伯爵令嬢のシャルロット』としてご家族に報いるためにがんばります。








シャルロットちゃんの部屋に戻り、今後のことを考え纏めようとノートを取り出したが纏まらない。


前世無双出来るほど賢くもなく特技もないため、いざとなったらの秘蔵アイデアなんて思いもつかない。


早々に諦め机上にあった手鏡を見て思った。


シャルロットちゃん、天使じゃね?


えっ、なにこのかわいい美少女!!!可愛がられるの納得納得!!


今までシャルロットちゃん自身を見る機会がなかったからあまりの美少女さに震えてしまう。


…それがこんなに幼いうちに死んでしまうのか…。


しかもただ死ぬだけじゃなくてこんなどこの馬の骨ともしれない他人に体をいいようにされている。


シャルロットちゃん………私、シャルロットちゃんに恥じないように生きるね。








そんなこんなで伯爵令嬢として恥ずかしくないよう貴族としてのお勉強が始まりました。


マナーなど慣れないことも多く毎日怒られては嫌になったりしょげたりすることもあるけれど、シャルロットちゃんが生きる筈の人生を投げ出す訳にはいかないと必死に追い掛けた。


教師は出来れば褒めてくれるけれど、シャルロットちゃんのご両親は黙々と私がいないように日々を過ごしている。


それが少し寂しいけれど、私はシャルロットちゃんじゃないから当然だ。


ない権利を主張してはいけない。


ただ真面目に、お父様が仰ったように伯爵令嬢のシャルロットとして精一杯言われたことをやり続けてきた。


数年が経った頃、お母様が時折様子を見に来るようになった。




お母様のことに気付いて数日後、教師から出された宿題で唸っているとドアがノックされ、返事をするとお母様が現れた。


何を言われるんだろう。本物のシャルロットはこうじゃないとか否定的なことを言われてしまうんだろうか。


ならば教えてほしい。


私もシャルロットちゃんとして、シャルロットちゃんに報いるために頑張りたい。


お母様は室内に入ってきてからもどうしようか悩んでいるようだったので、こちらから問い掛けた。


「お母様から見て、私は『シャルロット』としてきちんと出来ていますか?」


「えぇ…あなたは厳しくするよう命じていた授業にも必死についていっているようですわね。シャルロットに負けないレディになってきていると思いますわ」


厳しくするよう命じてたんかい!!道理できっっっついと思ったわ!!


でもど素人から貴族としての色々を覚えさせるならそれくらいしないとだめかもしれない。


それにお母様からシャルロットちゃんに負けないレディになってきていると言われたのはとても嬉しい。


数年間、初めてシャルロットちゃんのご家族…お母様から少しは認めていただけた。


嬉しくて少し泣きそうになっていると、お母様から遠慮がちに抱き締められた。


「………あなたのご両親も、娘さんを亡くされたのですよね」


おばさんの一言で急に思い出した。


そうか。


私が死んだということは、私の両親もシャルロットちゃんのご家族と同じようなことかと思った。


私の両親も娘である私を急に亡くした。


当たり前のことなのにまったく気付かなかった。


私が死んだあと、どうなったのだろう。


そもそも死因すら思い出せない。


両親とは同居で毎日顔を合わせていたのに、今となってはうろ覚えになってきている。


そうだよね。私、死んじゃったんだもんね。


改めて自覚して初めて泣いた。


お母様は背中を撫でてくれた。


私の母も、小さいときに私が泣くと宥めるために撫でてくれたことを思い出して余計に泣いた。








それから更に数年が経ち、お母様とはギクシャクしながらも親子のように接せられるようになり、お兄様とも少しずつ打ち解け学園のお話を聞けるようになった。


お父様は相変わらず時折難しい顔をする。


そして問題はもうひとつ。




お嬢様って、何をすればいいのかわからないですわ~!刺繍とか!ダンスとか!向いてなさすぎですわ~!


何故わたくしが急にですわ口調になったかと言いますと、お嬢様語的に多分語尾にですわを付けておけばオッケーって前世の私も言ってましたわ~!という理論ですわ!


社交界で変な語尾のご令嬢と噂されているのはまっっったく気付いておりませんでしたわ!


ただひたすら、シャルロットちゃんの天使っぷりを壊さないようにお嬢様として完璧にならねばですわ!!と意気込んでおりましたわ。




乙女ゲーとか悪役令嬢がざまぁするものに加えて最近はモブが主役のものもありましたので、もうどれを信じて何をすればいいかわかりませんが、前世無双出来るほどの能力もないので素直にお父様とお母様がお付けになってくださった先生方に学ぶ日々ですわ。


成績は「普通」ですわ!!でもシャルロットちゃんの可愛さで+100000点ですわよね!








そんなこんなしている間に学園に入学することになってしまいましたわ~!


同じ学年に第二王子とかなんやら乙女ゲー布陣と王弟の教師とかいう疑いようのない人選ですわ~!


もうモブに徹して壁の花になるしかありませんわ~!




そんなことを思う日もありました。




何故か第二王子とかなんやら乙女ゲー布陣とティータイムを迎えておりますわ~!


あちらでは第二王子の婚約者が扇子を折っておりますわ~!握力が怖いですわ~!


助けてお父様お母様お兄様~!


これ確実にヒロイン的扱いじゃありませんこと~!?


男爵家でも庶民でもなく平凡な伯爵家でございますことよ?


もしかしてモブ(ただしシャルロットちゃんはめちゃくちゃかわいい)伯爵令嬢がメインの小説かゲームでしたの!?


困りましたわ~!わたくしのシャルロットちゃんがかわいいばかりに!!


ヨヨヨとなりつつも不備も不義もないようどなたとも異性と二人きりで会わずマナーも完璧にこなし、ご無礼と存じ上げながらこちらから婚約者の方々にとても困っている、爵位が下のため断れないのでそちらでどうにかしてほしいですわ~!という旨をお手紙にして出させていただきましたわ。


もうやれることはやり尽くしましたわ。


いつでも灰になって「燃え尽きたぜ…」と言えますわ~!








しかしこれもテンプレでしょうか?


ご婚約者の方々とはなんとか誠心誠意お話をさせていただき、誤解である旨、あちらで男性陣の方々になんとかご忠言してくださることを約束していただけましたわ。


やりましたわ~!わたくし、やりましたわ~!




しかし、男性陣はわたくしとご婚約者の方々の理解を越える存在でした。




マナーなどのおさらいとテストである学園のサマーパーティーの場にて、わたくしを抱き寄せ婚約者の方々に婚約破棄を叩き付けました。


終わりですわ~!わたくしの人生も第二王子達も終わりですわ~!


実はわたくし、婚約者の方々とお話しさせていただく際に念のため冤罪で婚約破棄を突きつけられるかもしれませんのでご注意くださいと申し上げておりました。


おかげさまで第二王子達の妄言は次々と論破されております。


証人もきちんとおります。明らかに第二王子達の旗色が悪いですわ~!


そして保護者観覧自由なため、わたくしの成績を見に来たお父様には青筋が、お母様は気遣わしげにこちらをご覧になっておりますわ~!


このような騒動に巻き込まれたことを知られたら家から叩き出されて本日から立派な平民暮らしですわ~!


でも刺繍の腕もそこそこ上がり、いざという時のために庶民の生活も勉強してきたため放り出されてもなんとかなる気がしてきましたわ!


………だめですわ!シャルロットちゃんなら庶民になりません!シャルロットちゃんなら貴族のご令嬢として、もっとなにかなんとかしてみせますわきっと多分知りませんけど!!


ですが、中身は私なのでこんな教師も保護者も大混乱の現状をどうすることも出来ず、婚約者方のざまぁにぐぬぬ!している第二王子達からそっと距離を取り逃げ出すのがやっとですわ~!


あとは超美少女シャルロットちゃんですがモブと一緒にそっと遠巻きに眺めて事態の終息を待ちましょう。そうしましょう。




ようやく教師陣が機能したことと王城からの使いが到着して場は落ち着きました。


その際に第二王子達がわたくしの名前を叫びました。


シャルロットはどこだ!と、声高に叫ぶ現場に行きたくはありませんが、行かないとどうしようもなさそうですわ~!


シャルロットちゃんがかわいいばかりに!!このようなめんどくさい事態に!!


くっ、と歯噛みしていると大きな影が横から出てきました。




「私の娘がなにか?」


娘?娘と仰いました?お父様。


転生して10年、初めて娘と呼ばれた。


「お父様…」


「シャルロット、心配しなくていい」


抱き寄せられて頭を撫でられ、ふと転生した日の記憶が思い出された。


あの時も、この人はシャルロットの父としてシャルロットではない私のことなぞ存じ上げないまま娘としてただ心配しておりました。


「第二王子、娘はそちらの婚約者方々が仰るように王子達の言動に苦言を呈していたようですが、そのような言動を取る相手が好意を持つとお考えになるのですか?」


お父様、第二王子達相手に喧嘩吹っ掛けましたわ~!!別の意味で心配してしまいますわ~!


案の定、第二王子達はお父様のお言葉にまたキャンキャン叫び出しましたが、王城からの使いが連れ帰ってしまいました。


呆然としているわたくしにお母様が「大丈夫ですよ」と宥めてくださいました。








それから数日後、特にお咎めも何もなく、ご婚約者の方々とも交流を持たせていただけるようになり、お母様とはティータイムを過ごす仲になり、お兄様とは前世の記憶の話を訊ねられるまま答えたり、お父様とはまだ距離感が掴めませんが告白した日よりは穏やかな空気を感じられるようになりました。








私は、私の思うシャルロットちゃんとしてはまだまだですが、少しずつこちらの家族と仲が良くなってきているものと信じたいですし、転生した時はこちらの家族が新しい家族になれるとはおもえませんでしたが、今では転生先の家族が『家族』として伝えられるものとなれるよう、シャルロットちゃんの分まで家族を大切にしていきたいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る