第10話
それに笹島が気付いたのは偶然だった。
普段は立ち寄らないゲーセンのクレーンゲーセンの景品に篠塚の飼っている猫に似たストラップがあったのだ。
気が付いたらコインを入れていた。
あまりクレーンゲームが上手くない笹島だったが、何度目かの挑戦で無事獲得出来た。
明日はこれを篠塚に渡そう。
笹島には自分の行動の意味も分からないが、何故かそうしていたし考えていた。
翌日、教室内にて笹島は不自然にならないように篠塚にクレーンゲームの景品を差し出した。
「これやるよ」
「なにこれ。うちの猫に超似てる」
「昨日ゲーセンで見掛けてさ、篠塚の家の猫に似てるなって思ったら気が付いたら取ってた」
「まじかよ。いくらぐらいかかった?お金渡すわ」
財布を取り出そうとする篠塚を制して「俺が篠塚にやりたいからやったんだ。貰っといてくれよ」と返した。
笹島は最近本当に自分のことが分からなくなってきていた。
初めて見た他人の『死』を同級生の篠塚が与えたことに衝撃を受け、それからは篠塚に殺されたいと思うようになったが、肝心の篠塚は所属している謎の組織がどうのやらと理由をつけ誤魔化し、ファミレスのドリンクバー全種類制覇を笹島の生きる理由にしてみたりと笹島が生きることに肯定的だ。
それはいい。
あまり関係すらなかった同級生に理由もなく嫌われていて殺されるよりは生きることを願われた方がいいと死にたがりの癖に笹島はおもっていた。
しかし、最近は死ぬ理由より生きる理由探しより篠塚と遊ぶことが楽しくなってきていた。
ドリンクバー全種類制覇を生きる理由なんて言いながら、本当はその間の篠塚とのなんてことのない話がとても楽しいと感じていた。
笹島はずっと死ぬ理由と生きる理由を探していた。
その両方を与えた篠塚が笹島にとって特別な存在になったのは自覚していたが、これは、まったく想像していなかったのだ。
誰かが理由の人生なんて、笹島は自分には無縁のことだと思っていた。
だが、現に篠塚啓吾という人物が笹島悠祐の中にいて、いつの間にか顔を知っている挨拶はする程度の同級生から深い話までする仲になっていた。
希薄な関係性から一歩踏み込んだのはお互いが初めてだった。
だからこそ笹島は篠塚により思い入れを持っていた。
篠塚はどうかは知らないが、こうして日々を過ごすだけで笹島はわりと楽しく過ごしていた。
篠塚のスマホに猫のストラップが付けられることになったことに笹島はとても満足していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます