第5話

風邪をひいたから休む。


と、用件のみの短文のLINEを知ったばかりの篠塚にして笹島はまたベッドの住人になった。


何故篠塚にそんな報告をしたのかは分からないが、正直なところこれは風邪ではなく空砲でも撃たれたという事実による高揚感で出た知恵熱みたいなものだろうと笹島は思っていた。




もしも、あの銃に弾が入っていたら?


痛いのだろうか?苦しいのだろうか?


それとも即死で何も感じないのだろうか?


考えるとゾクゾクするが、夢想しても仕方がない。


自分に出来ることは日々のバイトをこなし、ファミレスのドリンクバーを全種類制覇し、篠塚の所属する謎の組織の決定を待つことくらいしかない。


しかしこう考えると篠塚の所属する組織は不用意に思えた。


一般人が同級生の殺しを目撃したというのに何もないまま放置状態である。


普通は何かしらの処置をするものではないんだろうか。


笹島がつらつらそんなことを考えていると再び睡魔が襲ってきた。








笹島が目を覚ますと自室内に篠塚が居たため思わずベッドから起き上がる。


「見舞いに来たらお前の母さんに無理矢理押し込められた」


「なんで家を知ってるんだよ」


「初めて見られた時にもしものために後をつけて」


悪びれもなく言うが、そのもしもは笹島を殺すためだろう。


「これ、見舞いの品なー」


無造作にベッドに置かれたビニール袋の中にはスポーツ飲料やゼリーなどが入っていた。


「サンキュ」


「ん。熱は?下がったか?発砲されて興奮して熱が出ただけとかならチョップいくぞ」


「風邪です風邪ですめっちゃ風邪をひいて寝込んでました!」


「絶対嘘だと思うからチョップなー」


と、篠塚は病人相手でも軽くチョップをしてきた。


笹島の熱はもう下がりきって興奮も冷めていたため本当に健康体だが扱いがひどい。




「それで?撃たれた感想は?」


「すっげーゾクゾクした…!」


「目を輝かせるな死にたがり」




軽口を言い合っているが、そういえば誰かが見舞いに来るのは初めてだなと笹島は思った。


これはやはり篠塚は友人ということでいいんだろうか?


あまり友人もいなかった笹島には判断がつかなかったが、そうだといいなと思ったし、篠塚もそう思ってくれていたら嬉しいと感じた。


だからといって「俺達、友達だよな?」と確認なんて出来ない。恥ずかしい。




篠塚は「今日のプリント、机の上に置いとくなー」と言ってさっさと帰ろうとする。


「えー。暇人にもうちょっと構えよ」


「今からバイトなんだよ」


その言葉にドキリとする。


「お前の願望のじゃねーけどな。見られるなんて失敗したばかりで回して貰えねーよ」


「どんな仕事なんだ?」


「守秘義務でーす」


鞄を手に持ち律儀に「お大事に」と言ってくる篠塚を笹島はただ見送るしかなかった。


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