1.ゴーストハウス(28回目)(3)
命を賭けないやつなら、やったことのある人も多いだろう。
脱出と頭についているぐらいなので、特定の空間からの脱出を目的とするゲームだ。が、なぜだかその出口には鍵がかかっていたりして、その鍵はどうしてだか金庫の中に収納されていたりして、そのダイアル番号はなんの計らいなのかベッドの下とか棚の裏とか壁の天井近くの隅っことかに隠してあったりするので、プレイヤーはあちこち探し回って、それを見つけないといけない。場合によっては、探索だけでなく、パズルや謎々を解かされることもある。
しかしこのゲームに限って言うなら──
だが、探索することにはするのだ。
そして、忘れてはならない、この建物は死の館である。
「とりあえず、最低限──」
食堂を後にし、廊下に出て、
「心構えだけ伝えておく」
六人まとめて行動することに決定した。
「生き残るには、とにかく、臆病でいること」
「少しでも怪しいと思った場所には近づかない。いつもと違う感覚があったらすぐ声をあげる。タクシー代わりにすぐ救急車を呼ぶ人というのが世間にはいるけど、みんなが目指すべきプレイスタイルはまさに〈あれ〉だ。警戒しすぎて一歩も動けないぐらいでちょうどいい」
「そんなことでいいんですか?」
聞いてきたのは、王子様なメイドさん、
「監視されてるんでしょう、これ。あまりにも動きがないと、主催者側から介入があるのでは」
「それはない。私の知る限りは。プレイヤーの全員が警戒しすぎて一週間以上なんの動きもなかったゲームとか、私みたいな協力的なプレイヤーばかり集まってなんの山場もなく無傷でクリアしたゲームなんてのもあったけど、それでも、介入っぽいものはなかった。どうプレイするかは、参加者の完全な自由。……だと思う」
そういうお達しが正式にあったわけではない。
「こういう場所では、ネガティブな人間のほうが強いんだ。だからとにかく、なんでもかんでも悪いように想像して。どんどん疑心暗鬼になって。それを心がけるだけでも、生存率はだいぶ変わってくるはず。あとは……そう、私がルート取りをするから、なるべく私から離れないようにしてほしい」
「安全なルートなんて、わかるものなんですか」
今度は金髪ツインテールの娘、
「経験上ね。かなり痛い思いしてきたから」
「一発食らってはいおしまいじゃ、見てる側も味気ないしね。相当に当たりどころが悪いか、あるいは、大型の障害でもなければ即死ということはない」
「大型の障害というのは?」
「絶対にかわせない罠っていうのがいくつかあるんだよ。こういう脱出タイプのゲームでは、特に。制作費のたくさんかかった、番組の山場になるところだね。プレイヤー数六人なら、たぶん、ひとつかふたつかな」
「……覚悟しておきます」
今度は〈ネガティブな未来を想像〉したのだろうか、
「あっ」
「いや、謝ることじゃないけど……どうしたの?」
「ああ……」
ああ、と
確かに、
今度は左腕に感触を覚えた。見ると、
「ありなんですよね、これ」
そう言った
続いて、背中に、すごい感触があった。お腹に手を回されていた。このすごい感触は、つまり、後ろから
「もてもてですな、
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合体したままメイドさんらは廊下を歩いた。
二回目のため心に余裕があるのだろう
しかし、なんだ、ひっついているほうのみなさまはそれで安心なのだろうが、
まず初めに、
扉は施錠されていた。鍵を探し出し、これを開くことがクリアへの順路だろうと
繰り返しになるが、このゲームは、脱出ゲームというよりは人が死ぬゲームなのである。鍵を見つけ出すことよりも、道中プレイヤーが罠にかかり怪我を負うことのほうが本題だ。なので、鍵の隠し場所は、そう凝ったものにはならない。机の上とか、棚の中とか、すぐ発見できる場所にあることがほとんどだ。
しかし──。
「ありませんね」
誰かが言った。
プレイヤーの初期配置場所──今回の場合は寝室──は通常、安全地帯である。寝ている間にうっかりプレイヤーが罠にかかったというのではゲームが台無しだからだ。そして、安全であるがゆえ、そこにゲームを進展させるアイテムの置いてあることはない。つまりここを探索するのは無駄とわかっているのだが、しかし、もう、残るはこの部屋しかなかった。ほかの部屋は、
しかし、ない。あったのはないという事実だけ。
「どう考えるべきなんでしょうか」
「見えるところにあったのをうっかり見逃したのか、それとも、もう少し細かいところを探さないといけないのか。あるいは鍵を求めるというアプローチが違うのか」
「鍵なのは間違いないと思いますけどね……」
「とりあえずもう一周しませんか……?」おどおどと言ったのは
妥当な意見だ。ベッドの下やタンスの裏、そういう場所にまで目を向けるとなると、比例してトラップ対面のリスクも増す。それよりも先に、これまで通ってきた、すなわち安全の保証されている道筋をたどり、見落としがないかチェックするのが堅実だろう。
「なに言ってるんです、みなさん」
それは、ただ一人
「探してない部屋、まだあるじゃないですか」
「え?」
「食堂ですよ。あの部屋は別にセーフエリアでもなんでもないでしょう?」
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食堂の風景は
ほかに人間がいないのだから、当然だ。食堂に入ると同時、
見慣れた部屋。
その風景の中に、鍵は、なかった。
「ないですな」
「考えてみれば、あれだけ長いこといた部屋なんだし、鍵なんてものがあれば気づきますか。すいませんね、お時間取らせて」
「いや、そんなことは……食堂っていうのは盲点だったし」
「せっかくだから、一息入れようか」
探索に出ていた時間は、──この館には時計がないので
「あれだけ食べたんだからもうわかったでしょう。安全なんだよ、こういうのは。いいかげん好きなの食べさせてよ」
恨みがましい目つきで
「……盲点……」
クッキーから大皿に視線が移った。
一度は取ったクッキーを
果たして、その下には。
大皿の下には、黄金色をした鍵束があった。
「……はは!」
メイドさんたちは、ざわめく。
「じつに盲点ですな。私たちはずっと前から、鍵に手を伸ばしていたわけだ」
そのまま、
それに際し、下部にきらきらと光るものがあるのを
それは。
それは、細い、マジックに使用されるような極細の糸だった。
「は?」
ほひゅ、という間の抜けた風切り音がして、
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そして、三つの音が連続した。
一つめは、高速で飛来した〈それ〉が
また、厳密には、
事切れた。
本ゲーム、最初の犠牲者だった。
「────!」
声にならない声があがった。
事態へのリアクションとしてはそれが最大で、ほかに、パニックを起こしたメイドさんはいなかった。それがせめてもの幸いだった。だが、あくまでパニックに至っていないだけであり、ショックを受けていないということは誰一人としてなかった。
全員、血の気の引いた顔だ。
これが死のゲームであると、心底、了解した顔だ。
「今、のは」
どれぐらい経っただろうか。口をきけるぐらい精神を回復させた最初のメイドさんは、
「今のが、トラップですか」
まだ万全ではないのだろうなと思われる質問の内容だった。
「よくある手だ。重要なアイテムの周辺に、特に危険な罠がある。もっと強く言っておけばよかったね」
もうワンテンポ早く指示できたなら、と
彼女には悪いな、と思った。
だが、口には出さなかった。
「その……それ」
言ったのは
「どうするもなにも、ここに置いておくしかないよ」
「ここじゃ埋めることもできないしね。できることといえば手を合わせるぐらいだけど、あまり、おすすめはしない」
「なぜですか?」
「この先、手を合わせる余裕すらない場面が出てくるかもしれないからだよ。
「……なるほど」
なにもなかった。
鍵束が、
「たぶん、これで、例の扉は開くと思う」
一人減ったメイドさんらを見渡し、
「みんな、まだ、進む気はある?」
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