第7話

 ほんとになんでこうなった。

 そうとしか思えない惨状に、俺は人目も憚らず頭を抱えた。

 俺の家が、俺の家ではないようだ。

 金髪のアル様に、騎士服のトールさん、そして新たに、可愛らしい嫁さん、が。


「説明していただきましょうか!」


 アル様相手にここまで大声を上げたことがあっただろうか。

 対するアル様は涼しい顔だ。


「説明する前に私を追い出したのは先生であろう」


 そうなんですけど!


「ですが、シリル様が、俺の嫁さん……だなんて意味がわからないというか! なんで高貴なとこのお嬢様が農民と結婚してくれるのかとか! そもそも俺に相談もなくいつの間にか結婚していたりとか、おかしいでしょう!」


 俺の主張は絶対に間違っていないと思う。

 しかし俺以外の全員が首を傾げるのだから、自分の感覚が疑わしく思えてくる。

 トールさんがにこりと笑って言う。


「家主様は、この結婚がご不満だということですか?」

「は?」


 首長の娘。お金持ち。大変可愛い。しかもこのご時世、結婚してくれるだけでありがたいのだと先日村長に教えてもらったばかり。

 相手に不満なんてない、けど。


「シリル様がどうこうという問題ではなくて、ですね。勝手にこういうことをされるのが少し、不満と言いますか」


 ごにょごにょと言ってみるものの「では問題ないな」とアル様は満面の笑み。

 なぜかシリル様も笑っておられるのが不思議でならない。君はいいのかこれで。

 トールさんにいたっては「逆玉ですね! 羨ましいなあ!」など冗談か本気かわからない合いの手を入れてくる。面倒くさい。


「どうしてシリル嬢が先生と結婚したかの質問だが、私が紹介したからだ。いい男だとな」

「へ、」

「仕事ぶりもいい、私への教え方もわかりやすく、しかも突然やってきた私を住まわせてくれるという押しの弱さ……お人よしだ。結婚相手として不足はないだろうとな」


 お金も綺麗な家も地位も持ってませんけどね。乾いた笑みを漏らす。


 続けてシリル様も口を開いた。


「私も実はこっそりお仕事ぶりを拝見させていただきまして。大変気持ちよくお仕事に励んでおられた様子が素敵だと……」


 徐々に赤面するシリル様につられ、どぎまぎとした俺だったが──ちょっと待て。

 まるで以前から俺を知っていたかのような。


 思いっきりトールさんを見る。

 俺の物理的な揺さぶりにもトールさんは笑うだけだった。

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