第3話
太陽に照らされ金髪が光る。第六王子アル様は鍬を片手に畑を耕している。
何度見ても異様な光景だ。
「アル様にこのような力仕事をさせてしまい、」
「何、私が自ら所望したこと。完璧にやり遂げよう。それに剣の稽古とそう違いはない」
「そう、ですか」
アル様はいきいきと畑を掘り進める。
さすが鍛えられていることもあって体力には余裕がありそうだ。
一国の王子にさせていいことかな。
ちらりと木の陰を見やる。
アル様が鍬を振り上げるたび、護衛の騎士がそわそわと顔を出すのだ。
王子の見たくもない姿を見守らないといけないなんて苦行でしかない。
「どうですか、様子は」
「トールさん」
アル様を押し付けていった騎士様だ。
王様付きの騎士で、普通の護衛騎士より位は高いらしい。
「喜んで作業していただけるので、助かることは助かるのですが」
「おや、いいではありませんか」
「金髪が気になるのと……護衛の騎士様が不憫で」
「ふふ、いいんですよ仕事ですから。家主様に気取られるなんて気が抜けています。気配を消すように後でしっかり伝えておきますね」
爽やかにトールさんは言う。笑顔が相変わらず怖い。
「金髪は慣れていただくか、何かハンカチーフなど巻いてしまうのもよいかもしれませんね」
そんなもの我が家にはない。
少し考えてみます、とだけ答えた。
「王子様の滞在はどの程度になるのでしょうか」
はしゃぐアル様には聞きにくいのだ。
「私からはなんとも申し上げられませんが、王子殿下が満足されるか、国の行事などで陛下から城へ戻れと言われれば殿下は従うでしょう」
「国の行事、ですか」
「はい。例えば、殿下はまだ婚約されておられませんが、もし急に婚約者が決まるなどあれば陛下は戻るよう指示されると思います」
王子様の婚約者ならどこかの国のお姫様だったり高貴な家のご令嬢だったりするわけだろ。
アル様の日焼けした顔や髪や虫刺され痕などを見たらどう思うことだろう!
そしてそれが俺の畑で農作業してたからだなんてバレた日には!
さあっと血の気が引いた。
「トールさん! 早急に用意してほしいんですけど!」
次の日、大きな麦わら帽子と長い手袋、厚手の農作業着が届けられた。
「これは?」
「農民の制服みたいなもので身を守るために欠かせないんです」
主に俺の。
王子の完全防備の農民姿に護衛騎士はまた顔を出したけれども、仕事として割り切ってほしい。
俺も自分が大事なんだ。
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