6-5
誘われるままに足を踏み入れた夜の世界だったけれども、気づけば一年が過ぎていた。
正社員をしていたときよりも短い労働時間で、倍近い手取りの給与が手に入るのに、それでも毎日は不満だらけで辟易する。少しずつ募るあてのない苛立ちは、梅雨のせいだと思いたい。
「コッコが今週の金曜日、うちに遊びに来るって」
窓の外の雨を眺めているとふと思い出したので、テレビを見ている母に話しかける。
「こっこちゃん? 大学のお友達? その日はお母さん夜勤やわ。お父さんも出張で土曜日に帰ってくるって」
母は人の名前を覚えるのが得意でない。仕事で困らないかと聞くと、同僚は名札があるし、患者さんに限っては不思議と覚えられるから問題ないという。
「子どものときからずっと仲良かったコッコだよ。家に誰もいないなら丁度いいや、真夜中にピザ頼んじゃおー」
ふーん、と素っ気ない声が返ってくる。あまりピンとは来ていない様子だ。続いて「近所迷惑にならんようにね」と、まるで幼い子どもに言い聞かせるみたいだ。
窓を打ち付けるように降っていた雨は弱まり、しとしとと庭を濡らしている。雲の切れ間からはわずかながら陽の光が少し差しており、曇天が続く梅雨、私は久々に明るい空を見た気がした。
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