6-1
三月、社会人になるゆあちゃんの卒業パーティーとして、トルマリンの従業員メンバーで飲み会が行われた。
「ゆあちゃん、短期間でめちゃくちゃお客さんつけたよねー。すんごいなー」
「いや、かりんさんは接客やる気なさすぎなんですよ。未だに森さんにはじめましてって挨拶するでしょ」
かりんさんは、聖子ママを除くメンバーの中では一番の古株のホステスだ。漫画家志望なのだというかりんさんは今年三十歳になるらしいけれども、ゆあちゃんと並んでも同級生くらいにしか見えない。私よりよっぽど若く見えると思う。ホステスの割には薄い化粧がより一層若さに拍車をかけている。
女優でもやっていけそうな端正な顔立ちと透き通った綺麗な声をしているが、どうにもお客さんとの会話を無難にやり過ごしがちなためか、彼女が同伴出勤をしているところはおろか、おこぼれに預かる以外でドリンクをもらっているところを見たことがない。
「だっておじさんってみんな同じ顔してるもん。見分けつかないよ」
それを聞いた聖子ママは、かりんさんの頭をはたく振りをして、まったくこの子は、とあ言った。舌を出しておどけるかりんさんは、本当に少女のようだ。
「ゆあちゃんはずっと夜のお仕事続けるんやと思ってたわあ。四井物産で働くんやんね?すごいなあ」
リナさんが髪を耳にかけながらゆあちゃんの顔を覗き込む。
「いやいや、四井のグループです。子会社の子会社みたいなとこだし、何もすごくないですよ」
ゆあちゃんの謙遜に、ため息を付きながら口を開いたのは聖子ママだった。
「ゆあちゃん、爪の垢くれる?かりんに飲ませるわ」
専門学校に通っていたときからトルマリンで働いているというかりんさんは、聖子ママとは十年の付き合いになるらしく、とても仲が良い。お客さんがいないところではよく喋るかりんさんは、こうして話していると聖子ママと親子のように見える。
「お昼の仕事が合わなかったらすぐに辞めて戻ってきちゃうかも。良いですか?」
聖子ママとリナさんはニコニコしながらいつでも戻っておいでと言うが、かりんさんだけは穏やかだが笑っていない顔で黙っていた。
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