2-4
宇宙空間に放り出された脳みそが、私の頭蓋骨にようやく戻ってきた。
空間に離散した自分のかけらを拾い集めてもう一度成型し直したような、同じ材料で違う物体が出来上がったみたいな感じがする。
これがととのった、というやつだな。よくわからないがとても気分がよい。
サウナに再び入ると、件のマダムが最上段に鎮座していた。私も最上段に、彼女から一メートルほど距離を取って座る。
座った瞬間から汗が止めどなく溢れてくるけど、さっきほど呼吸は辛くないし、肌への刺激にも随分慣れた。体がサウナに順応しているようだ。
少し余裕が出てきたので、汗で滑る皮膚を活用してふくらはぎをマッサージした。
「お綺麗な方は努力しているのね、あなた。かっこいいわ」
突然話しかけてるくるマダムの声はやはりイメージ通り穏やかだが、思いのほかフレンドリーに話しかけられるものだから驚いた。
「恐縮です。ありがとうございます」
私の母と同い年くらいだろうかなんて思っていたけど、言葉遣いや雰囲気から察するに母よりも十歳ほどは歳上だろう。
「マダムもお肌ピカピカできれいですね」
「あらやだ、マダムってわたしのことかしら?」
言ってからハッとしたが、彼女はその呼称を気に入ってくれているらしい。笑うと目がなくなるところが、母親に似ている。
「あなた、一人で来たの?」
「いえ、友人と来ました」
「あらそうなの? ここの銭湯は、私みたいな常連のおばあちゃんしかいないから、あなたみたいに若い方がいたらよく目立つのだけれど。サウナにこもってばかりだからお見かけしなかったのかもしれないわね」
サウナの室温計は九十度の少し過ぎたあたりを示しているが、マダムは余裕綽々といった様子で「あなたおいくつ?」なんて世間話を広げる。
「二十五歳です」
「あら若い。良いわねえ
「マダ……おねえさん、そんなに私と歳は違わないんじゃないですか?」
「あらま! 大人しそうに見えてなかなか言うわね、面白いわ」
「どうも、大阪出身でして」
「あらそうなの? 私の妹も大阪にいるのよ。あまり連絡を取らないのだけど、何だかお店の切り盛りを任せられてるとか言ってね、忙しそうにしているわ」
マダムはよく喋った。私も負けじと喋った。
お先に失礼するわね、と言ってマダムがサウナから出ていくまで、私は初対面の人間との会話を楽しんだ。人見知りの私が嘘みたいにペラペラと喋った。
何だかよくわからないけれど、サウナでととのう効果は凄まじいらしい。
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