『生命とは何か』
という哲学的な命題を柔らかく問うた物語
だと、私は認識しました。
フィリップ・K・ディックの名著『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』
映画版『ブレードランナー』でも、人工的に造られた生命体はでてきます。
人工的に造られた様々な動物が存在しており、
フクロウや蛇などのペットもほぼ全て人工物。
自然由来の存在はごく限られた金持ちしか所持できない貴重品。
ブレードランナーでは、人間すらも人工的に創り上げ
危険地帯で働く道具として利用されていました。
本作『電気猫を飼ってみた』では、近くて遠い近未来の姿が描かれています。
自然由来のネコを飼っていた主人公が、
ペットの死を機に、電気仕掛けのネコを契約してみる。
始めは忌避していたが、やがて訪れる心情の変化。
一個の生命という『唯一にして無二なもの』という認識が
『気軽に再現できて、有り触れたもの』へと緩やかに変わっていく……
その行きつく果てに私はディストピアしか感じることはできませんでした。
生命倫理とは『個の価値』を認めることだ。
と、そう思い至ることができました。
『個の価値』を蔑ろにし『種としての質』のみを持て囃す未来……
やがて人間は恋愛の果てに待ち望まれて産まれる『人』ではなく
工場で受注生産されるような『モノ』へと変わっていくのでしょう。