誰かが記す思考録

多良子

記録者

 赤い月光が差し込む小部屋、狭い部屋の中に無数に積みあがられた本の山。

 その山に囲まれ、中心でくつろぐ黒髪の少女が一人。

 本を無造作に取り上げ、適当にめくっては何かを記し、そしてそれをまた無造作にどこかへと置いていく。

 それを繰り返す中で、一つの本を取った辺りで、少女は空を見上げる。

 「おや、お客さんじゃないか。こんな所に来るなんて珍しいことで」

 っと、突然空に語りかける。

 「空じゃなくて君だよ」

 ・・・

 「おや、だんまりかい。困ったもんだねぇ」

 「まぁいいさ。ただ私を見てるだけで満足ならそれで構わんよ」

 「とはいえ、うん。これじゃ仕事がやりにくいったらありゃしない。そうだなぁ」

 少女は、うんうんとうねり、徐に悩むそぶりを見せる。

 時折、空をチラッと見てくるのは、何を考えての事なのか。

 「あくまで知らんぷりか」

 「もういいさ、ここに居たいなら居ればいい。だた仕事の邪魔だから、そこらで本でも読んでなさい、ほら降りてきて」

 

 本の山、その隙間から僅かに見える少女が、開いたままの本を壁に向けて立てかける。

 「これでいいかい?まぁ文句は受け付けんがね。取り合えずそれでおとなしくするんだよ、いいね?」

 少女はまた最初の動作に戻っていく。

 地面に立て置かれた本の表紙には「醒めぬ夢の演者達」と書かれていた。


 「うん?表紙が見えてるの?向き間違えたか」

 少女は、本の向きを変えた。

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