第7話 輝ける場所


「おお……ッ」


 騎士達が感嘆をもらす。

 ーーさあ、どんな態度を取られるか。

 王子がきつく拳を握りしめて、数秒ーー彼らは大声で大歓声をあげた。


「おおおおおおおおおおお!!!!!!」

「おお……お噂以上の神々しい輝き……!!!」


 ゲーミングカラーは彼らの鎧をゴキゲンな色で照らす。

 照らされた彼らの大喜びっぷりに、第二王子は大困惑した。

 こんなに大歓迎されたのは生まれて初めてだ。


「い、一体どうしてこんな」

「王子殿下! ありがとうございます!!!」


 頬を紅潮させ、レンべラント卿が興奮した声をあげる。


「これならば夜警がとてもしやすいです!! いやあ、本当にありがとうございます、第二王子殿下!!!」

「お、おお……」

「よーし! 配置につけ!!! 王子の輝きを効率的に反射して夜の街を照らし出すんだ!!」


 彼らはキビキビと隊列を組み、配置について夜警を始めた。

 ぽかんとしてしまった第二王子も、慌てて隊列に入る。


 歩きながら、王子は何度も首を傾げた。


「夜をギラギラと輝かせてしまったら、眠れなくて迷惑なんじゃないのか……?」

「商業地区はむしろ、夜通しギラギラしてた方が助かるんですよ」


 隣で白銀のアーマードレスを七色に輝かせたグレイシアが、サングラス越しに微笑んだ。


「商業地区にそのまま住んでいる人も多いですが、商人の方のほとんどは居住区や、行商の方なら宿に泊まります。そうするともぬけの殻になった商業地区では犯罪が起きやすくなっているんです。かといって、夜警だけでは手が足りません。かといって、自衛に任せすぎるのは商人の方がたへの負担がすごいですし、街を照らし続ける水銀灯を立てるのも非効率的ですし……なので、王子が輝くとみんな嬉しいんです」

「そういうもの……なのか。知らなかった」

「ええ。そして私も隣におります。この鎧で王子のゲーミングカラーを何倍も反射させてみせますね!」

「僕の輝きが……必要とされる場面もあるのか……」

「はい」

「…………あ、」


 ここで手を繋いだままなのに気づき、王子はパッと手を離す。

 握り締められていた手に気づいて、グレイシアも白い頬を赤く染めた。

 お互い、ぎこちなく立ちすくんでしまう。


「王子、グレイシア様、隊列乱れます」

「あ、ああすまない」

「申し訳ありません」


 二人は慌てて隊列に戻る。

 そんな二人のそばで、ゴキゲンにテンションアップした騎士たちが片手を上げる。


「よし!! 王子が一緒だから俺らも頑張るぞ!!」

「えいえいおー!!!」


 王子はそんな彼らをじっと見た。そしてグレイシアの手を握る。

 はっとしてグレイシアが彼の顔を見上げると、輝く王子は緊張した様子で口を開いた。


「み、みんな。……聞いてくれ」


 王子の絞り出すような声。騎士は皆足を止めて王子に注目する。王子は繋いでいない方の手のひらを開いてみせ、皆に語りかけた。


「僕は……このように魔力が溢れているから、みんなに一斉に守備魔法をかけることができる。希望者は……目を閉じて、僕の前に並んでくれ」


 勇気を出した提案だった。グレイシアの手を握る手は、緊張の汗で濡れていた。

 騎士たちは大喜びで全員王子の前に一列に並び、「オナシャス!!!」と声を揃えて頭を下げた。

 王子は彼らを信じられないといったふうに息を呑みーー嬉しそうな声で、魔法を展開した。


『守備魔法展開!!!』


 騎士の鎧が一瞬ゲーミングカラーに輝き、守備魔法が施された。

 彼らは目を開き、さらに興奮の声をあげて喜んだ。


「……ふう」


 王子は息を吐いて、そして隣のグレイシアを見た。


「お疲れ様です、王子殿下」

「……ふん。まあ、僕にとっては造作もないことだからね。皆が怪我をしないためには当然のことさ」


 強がった振りをしながらも、内心、王子は胸に溢れる興奮を抑えられないでいた。人前に立てば否定され続けていたシャテンカーリ第二王子がようやく、自分のパワーで人の役に立てた瞬間だった。

 それよりも、王子は言いたいことがあった。グレイシアに。


「ああ。……その、グレイシア」

「はい」

「……あのさ。……君、鎧も白いけれど……髪も銀髪だろう」

「はい」

「だから……その」


 王子は絞り出すように、小さな声で続けた。


「僕の光が当たると、君の髪も七色に輝いて、き綺麗だ……な……と、思った……だけだ」


 きらきらに輝くグレイシアから目を背けるように、王子はそっぽを向く。

 グレイシアはまたぽかんとして立ちすくんでーー隊列の後ろの騎士が当たってよろけた。


「申し訳ありません」

「いえいえ」


 謝罪するグレイシアに、王子は繋いだままの手をきゅっと強くする。


「立ち止まったら迷惑をかけるだろう。だから……手は繋いだままにしておこう。……離すなよ」

「あ……ありがとうございます、王子」


 二人の様子に気づいた騎士は、その甘さにニヤニヤと笑った。

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