第43話 世界の軍備再編成2
果たして、中国、ロシアからM国での軍備の無力化及び軍の解体を受けて、WD-WPCと不自然に現れ消えた自衛隊の部隊に係わる問い合わせがあった。日本から発表したWD-WPCの情報とM国で調べた結果を受けてのことであるが、日本は当然相手にしなかった。
しかし、相手にしなかった日本の態度に、両国の防衛大臣が日本に押しかけてきた。必ずしも両国のみならず、多かれ少なかれ軍を持つ全ての国にとっては、M国での自衛隊の活動の結果を受けて今後の世界の軍備がどうなるかは大きな関心事であった。
だから、両国はこのような国々を説いて後押しさせる形で、技術を公開し自分たちに渡すようにと、両国の戦争も辞さない態度を取った。それに対してマスコミはいつものように大騒ぎをして、M国に介入した政府の責任であると攻めたてた。
だが、両国がこのように出るのは、日本と合同で会議をした米英両国にとっては予想の範囲であり、日米英の会議の後に、その結論に基づいてすぐにG7の各国と協議を済ませている。
だから、中国・ロシアの防衛相を日本で迎えたのは日本の外相・防衛相と共に、アメリカの国防長官とイギリスの防衛相であった。その紛糾するのが必至の司会役は、日本の外務大臣仁科健太郎であった。
出席者は3国の日本の防衛大臣の宮崎博、アメリカの防衛長官はジョナサン・マッカーシー、イギリスの防衛相であるケビン・ミッチェルに対して、中国の防衛大臣の宋・ジョシンとロシアの防衛大臣がピーター・ゴルビンである。
最初の挨拶等のやり取りの後に、口火を切ったのは太って口髭のあるロシアのゴルビンである。コルビンは英語には不自由はしないので、この場合には直接話をしている。その点、宋は通訳を挟んでいるが、日本側の2人も英語で直接協議をできるので、唯一通訳を挟む形になっている。
「そもそも、今回なぜアメリカとイギリスが出てくるのか、おかしいだろう?」
「いえ、決しておかしいことはありません。今般、WD-WPCという世界の軍事事情を一変させるようなWPCを開発して、実際に使ってみてその有効性を確信しました。だから、最も親密な同盟国であるアメリカとイギリスに相談したのです。その結果、大変有意義な提案を頂いたのでその披露を兼ねて同席して頂きました」
この仁科の返事に痩せぎす三白眼の中国の宋が喧嘩腰で応じるが、宮崎は冷静に返す。
「世界の問題に、アメリカとイギリスのみと話をするのはおかしいだろう?これは、わが国やロシアのような近隣諸国を含めた国連で話し合うべきだ!」
「いえいえ、今回議題のWPCは我が国で開発されたものです。だから、その使い道を決めるのに相談する相手は、我が国が選ぶ権利があります。そして、慎重な検討の結果アメリカとイギリスを選びました。
また、その協議の結果として、この技術は無制限で公開するのは無理があるという結論になっています。そして、その公開する相手を一応決めた所です」
「であれば、当然大国たる我が国はその公開及び技術提供の相手に入っているのだろうな?そうでなければ我が国は断固とした措置を取るぞ」
「そうだ、わが国も同様だ。貴国の出方によっては軍事的な対抗策も辞さないぞ」
ロシアと中国の外相が口々に言うが、長身でスマートなアメリカのマッカーシー長官が、にこやかに、しかし鋭い目で2人を睨んで応じる。
「ご両人の言うことは、まさに軍事的な脅しとしか思えないが、まさかこういう席でそのような礼儀知らずをしないと私は信じるよ。お忘れではないと思うが、日本と我が国は安全保障条約を結んでいる。そして、日本を脅すということは我が国を脅すに等しいということを認識しているのでしょうな?」
「ふん、今回の話、WD-WPCもそうだが、空間を自由に行き来ができるWPCという代物は黙って放置にするには重大すぎる。日本と米英がそのWD-DPCを持って自由に我々の国に侵入できるということだからな。貴国が逆の立場だったら放置できるかな?」
コルビンが負けじと言うが、まあ当然であろう、仁科は思った。
2国ともに軍事力を前面に出した強面がポリシーであり、外交姿勢が強引である。日本に押しかけて来たのは、日本が対処能力を持たない核を持って脅して、問題になっているWPCを出させようということだろう。
しかし、世界最大最強の軍を率いるマッカーシーはまともに喧嘩を売った。
「放置はできないから勿論交渉したよ。そして、その結果日本は同盟国である我々に快くその技術を提供することを同意した。実際に、M国への介入時には日本から我が国への事情の説明があった。そして、WPC技術の提供は交渉の結果であるが、日本はこころ良く受けてくれたよ」
「しかし、………」
反論しようとするコルビンを遮ってマッカーシーは話を続けた。
「自分の国のやってきたことを思い出してみなさい。前の戦争の後、日本が死に体であることに付け込んで、条約を破ってその領土に攻め込み、その奪った土地を返そうともしない国に、喜んで譲歩をしようと考えるかね?」
さらに彼は宋を指さして言う。
「明らかに日本領土である島の領有権を主張して、領海に何時も侵入して挑発行為を繰り返す国に、何かその国のためにやろうと思う者がいるかね?仮に、ここにいるニシナとミヤザキが許しても日本国民が許さんよ」
そこで、イギリスのミッチェル防衛相が割り込み、ロシア・中国の2人を交互に見て言う。
「ジョナサンの言う通りだ。ここで、君らの国が仲間外れにされるのは、自らがやってきたことの結果だ。君らも理解しているように、WD-WPCと空間転移のWPCによって軍事の常識は根本的に改変され、パワーバランスを全く変えてしまう。
この改編の流れは、それが出来た以上は止められない。我々はその改変をまずは理性的な国々を巻き込んで始めようと思っている。その意味で、我々、とりわけこれらの技術を唯一持っている日本は、君らの国を信じていないので、加えたくないようだぞ。どうですか。宮崎防衛相?」
「ええ、まあそう言うことですね。せっかく来られたのですから、我が国政府が閣議で決定したことをロシア、中国のお二方にあらかじめお話しておきましょう。
まず、WD-WPCとその技術は、ここにいる3か国である我が国、アメリカ・イギリスを含むG7+オーストラリアで管理します。その後、世界へのこの技術の伝播は今後の世界情勢を見て慎重に決めていきます。
そして、G7+1各国が共同でM国において今回起きたような問題に対処しようということです。それは、誰もが眉を顰める人権問題を含む、世界の武力紛争に係わる問題に対処するために共同で武装部隊を編成します。
その各国が資金と数千の武装兵とスタッフを拠出するものとします。本部は日本に置いて、基地は北アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアに設置します」
宮崎が淡々と言うと、宋が怒鳴り始めた。中国語であるので、仁科外務大臣が半分程度分かる程度だったが、無論室内には解かる者もおり、録音をされているので、後に世界に映像と共に公開された。
「小日本め!何を偉そうなことをほざくか。お前のちっぽけな国など、わが第2砲兵部隊(核ミサイル部隊)によって更地にしてやる。この国では誰一人生き残らんだろうな。それから後悔しても遅いぞ!」
それぞれの要人は中国語の通訳を付けているので、怒鳴った言葉の意味は掴んでいる。ロシアのゴルビンは、仲間である中国防衛相の国の代表としてうかつな言葉に顔を顰めたが、その発言に乗る決心をした。
「中国のお仲間は、いささか感情的になっているようですが、わがロシアとて同じ思いです。そのように正面から我々を敵視するようであれば、我々は核の使用も考えざるを得ないと言うことになります。確かに、アメリカの防衛費支出は圧倒的ではありますから通常戦力において我々は敵いません。
しかし、わがロシア、そして中国の核ミサイルに対しては、米軍も他の国の軍も完全な防衛はできないでしょう。そのような争いに通じる選択はお互いにとって損だと思いますぞ。このまま帰るということのなると我々も国内において立場がありません。だから、核ミサイルの使用という非常の決断をせざるを得ないでしょう」
ゴルビンは冷静に言ったが、確かに彼の言葉にはそれなりの説得力があった。それに対して、イギリス防衛相が反論した。
「うむ、ゴルビン防衛相の言われることも一理はありますが、結局は核を使った脅しですな。我が国とアメリカが貴国らの日本訪問に、異例であるのを承知で同席したのは、日本が核を持たない国であることに対して我々が核保有国であるからです。つまり、間違いなく貴殿らは日本を核で脅すと考えたのですが、正しかったですな。
我々も正直なところこの世界を核のない世界にしたいのですよ。だから、本当のところは核保有禁止条約に賛成して、核兵器を放棄したい。しかし、貴国、宋氏の中国、さらには危険な北朝鮮などの存在があります。
しかも、貴国と中国は今この場において核で相手を滅ぼすと脅してきています。だから、我々も核を手放すことはできないのです。
このWD-WPCは軍事の変革を促すものであり、私は、それは同時に世界の軍事の縮小を促す大きなチャンスであると思っているのですよ。G7のみがWD-WPCを持って、それを装備した国際的な軍事部隊を持つ。そのガバナンスはG7の共同で行いますし、組織・行動理念はその協議で決めます。
旧来の火薬を使った兵器は、WD-WPCの前には基本的に無力化されるというか危険物になります。だから、軍隊相手にしても武装組織相手でも今度生まれるG7の軍事組織は圧倒的に有利な立場になります」
「何を言うか、まだ我々には核兵器があるし、さらに長距離投射兵器にはWPCは無力だろう?」
宋防衛相が大声で言うのに、宮崎防衛相が応じる。
「ミサイル、長距離砲にも対処できます。核兵器も対処方法は見出しております。ただ、これは米英には申し訳ありませんが、わが国のみのトップシークレットです。それと、思い出して欲しいのは空間転移のWPCというものの存在です」
「う、嘘だ!WPCには距離の制約があるはず。だから、迎撃をしても大被害を受けることは間違いない。核ミサイルの無力化などは出来るわけはない!」
宋がわめくが、宮崎は冷静に言う。
「考えて下さい。火薬を検知するWPCが出来るのですよ。放射能を発生している核分裂物質を検知するのはずっと簡単だと思いませんか?検知できれば、その不安定な核分裂物質を活性化することは容易だと思いませんか?」
今度はロシア・中国の防衛相の顔色が変わった。あらかじめ聞いている米英は動揺していないものの、聞いたときは両人とも狼狽えたものだ。
「何だと!つまり、核爆弾を自由に爆発させることができるということか?」
「ええ、そうですね。あなた方が保有している核が弱点になるかも知れませんよ。所有していないわが国は、その点安全ですから幸いです」
宮崎の言葉に、米英の防衛相が苦笑いをしている。
「嘘だ!そんなものが都合よく次々に出来るわけがない」
宋が言うが、余裕で宮崎が返す。
「今までのWPCの実績をご存じですよね?従来であれば考えられない機能のものが次々に出来ているでしょう。発電のWPCに関しては貴国でも大いに役に立っていると思いますが。それに、M国でのことは分析されたでしょう?WD-WPCが実用化されていることは間違いありません」
黙ってしまった、ロシアと中国の防衛相に今度は外務相の仁科が言う。
「我が国も仲間になるG7の国々も、決してあなた方の国を侵略して支配しようなどと考えてはいません。
ただ、過去あなた方のやってきたことが、G7として一致して不当と考えた場合には、その解放についてその限りではありません。また無論、北方領土、尖閣諸島については日本の言い分を通します」
「こ、この………」
宋が凄い顔をして仁科を睨んでいるが、ゴルビンが机を少し強めにダン!と叩いて言う。
「うん!状況と日本の言うことは理解しました。しかし、我々も軍備が無力化される事態は座視できない。この件は本国に持ち帰り検討します。ただ、我々が黙って引き下がることはないことは覚悟して頂きたい」
「私も同じことを言うぞ。我が国もこのように面子を潰されて黙っている訳にはいかないぞ!」
宋もそのように言って、両国の防衛相は喧嘩腰のまま帰って行った。
その翌日、G7にオーストラリアの防衛相が集まってG7+1安全保障委員会の設立と、G7+1人道防衛隊の設立が宣言された。オーストラリアはG7以外で唯一信頼できると考えられたのだ。
実質的にこの組織は国連の安全保障理事会と被るが、G7+1は、理事であるロシアと中国のために機能していないそれより実行性のある活動ができると堂々と公表した。
そして、すぐさま第1回の委員会が開かれて、委員会と人道防衛隊の大枠、さらにポリシーが発表された。勿論、ロシア、中国は猛反発して、途上国を巻き込みにかかったが、多数決原則の国連と違ってその行動に意味はなかった。
本部は、アメリカのカルフォルニアに置かれ、人道防衛隊の本部は日本の岩国、基地がアメリカのカルフォルニアとフランスのパリ郊外、さらにオーストラリアのケアンズに置かれた。委員会の議決は基本的に多数決で決するものとして、一票の価値は平等である。
人道防衛隊については各国2千人の割り当てで、常時千人を各基地に派遣していて、残り千人は自国の軍で訓練を行うことになっている。司令官は、米軍からジョン・スパーツ中将が就任している。無論WD-WPCは配備されていて全体に定数2千台であり、当初から千台については配備されている。
またこの部隊には機動力が重視されていて、当初から輸送機C5やC17を配備されている上に、ヘリコプターCH53Eなどを運用して、さらに日本からはヘリ空母“ひゅうが”米軍からライトニング空母が配備された。この部隊の兵器は現状のところでは火薬式であるが、近い将来にはWPC方式の小銃に代わる予定になっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます