第80話 勇者と対面(side:ホーク)

「フルジリアが召喚した勇者様の一人らしい」

「勇者?!…勇者がこんなとこにいていいのか?」

普通に考えればあり得ないことに思わずラナオを凝視してしまった…

「フルジリアはラナオが思い通り動かないと危惧して捕えようとしたらしい」

「なんだそれ?勝手に召喚して捕えるとか…人族とはそこまで腐り果てたか?」

亜人を捕えて奴隷にしたり、その辺のガラクタのように扱ったりするのは有名だ

明らかに下に見てるくせに力だけは求めるフザケタ奴ら

それが亜人にとっての人族に対する認識の一つでもある


「人族をひっくるめるな」

「…すまん。その通りだな」

ミリアだって人族だが、断じて同じではない

「…とにかくラナオはフルジリアを許さないと言って、今ではグズリスで腰を据えようと考えているらしい」

「フルジリアに立ち向かう勇者様か…」

これは協力してもらえるだろうか?


レオールもフルジリアに狙われている

ミリアもレオールも俺達より遥かに強い…が、それでも守ってくれる者が増えるならこんなに喜ばしいことは無い

「俺も会うことは出来るか?」

「ああ、大丈夫だろう。酒が好きでよく飲み歩いてなさる」

「…と噂をすればなんとやら」

おふくろが立ち上がり店先に向かう

少しの間話し声がしていたと思ったら、戻って来たおふくろの後ろから若い男が一緒に入ってきた


「ラナオ、私の息子のホークと孫のザックよ。彼はさっき話したラナオ」

おふくろがそう紹介してくれた

見たこともない黒髪黒目のさわやかな青年だ

「ホークだ」

「ザックです」

俺に続いてザックも軽く会釈する

「ラナオです。グズリスでは皆さんにすっかり世話になってしまって。特にここのジャーキーは上手い」

屈託のない笑みを浮かべるその顔に本心だとわかる


「あのジャーキーはホークの知人が教えてくれたそうなんだ」

「そうなのか?」

俺たちの方を向いて尋ねるラナオに頷いて返す

「ジャーキーだけじゃなくて見たこともない料理をたくさん知ってるんだ。中でもBBQは一番のお気に入りだ」

「…BBQ?」

ラナオがその言葉に反応した

「すまない。そのBBQを教えてくれたという人に会うことは出来るだろうか?」

「え?」

BBQと最初に口にしたザックが戸惑った

その危機感は誉めてやろう


「悪いが俺達の一存では何とも言えん。本人に確認して同意すれば別だが」

ミリアは特殊な点が多い

簡単に紹介していいとは思えない

それにラナオはグズリスで受け入れられているとはいえ、元々はフルジリアで召喚された勇者だ

レオールのこともあるから慎重に行くべきだろう


「もちろんそれで構わない。一度聞いてみてもらえないだろうか?」

「聞くって言っても俺達の住んでるのはここから3日くらい森のけもの道を抜けた先だよ?」

「まぁお前さんが一緒に来て確認中はうちで待つってなら構わないが、流石にその確認だけで往復するのはごめんだ」

里帰りですらそんな頻繁にしてるわけじゃないのに確認の為だけに往復などありえない

「あ、あぁ。迷惑をかけるが同行させてもらってもいいだろうか?その人が断った時は諦めてグズリスに帰って来ると約束するから」

少し必死さを感じるのは気のせいか?

でもグズリスに住む色んな集落の者が受け入れている時点で悪い人間ではないことは証明されている


「俺達が帰るのは3日後だ。それまでに準備できるか?」

「もちろんだ」

「なら3日後の朝の鐘が鳴る頃に家に来てくれ」

「分かった。感謝する」

ラナオはそう言って頭を下げる

人族に頭を下げられる日が来ようとは…

その後俺は少々複雑な思いをしながらラナオの言葉を聞いていた

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