第10話 闇魔法

「うぅ…」

「まずは休憩だな」

くつくつと笑いながらカシオンは私の頭に手を置いた

何か面倒見のいいお兄ちゃんって感じ


「…俺は兄って程若くないぞ?」

「え?」

「1,000以降数えてないけどな」

「1,000?!」

「今さら何を驚いてる?この世界が出来てから1,500年だしもっと歴史の長い世界もある」

そっか、管理してるってことはそういう事よね

…おじいちゃん

「…それはやめてくれ」

カシオンが心底イヤそうな顔をした


「ねぇカシオン」

「ん?」

「勇者たちを止めるってすごく漠然としてるじゃない?」

「…まぁそうだな」

「私はどうしたらいいんだろう?」

勇者として魔獣討伐するあの子たちを倒しに行くのは違う気がする

よそ者に自分たちの人生丸ごと背負わせる国には少しくらい痛い目を見て欲しいとも思ってしまう

だとしたら私はどんなタイミングでどうすればいいのかがわからない


「そんなに重く考えなくていい」

「え?」

「少なくとも当分の間は自由に過ごせばいい。その間にお前のスキルや特性の使い方を覚えられるだろう」

それはそうかもしれないけど…


「俺達もミリアから働きかけることは望んでない。ミリアがこの世界にいて、自分の身に降りかかってくることがあれば、それを払いのけてくれればいい」

「…そんな感じでいいの?」

「ああ。ミリアに何かが降りかかるってことはこの世界自体が危ない時ってことだろうからな。でも俺達は何もこの世界を甘やかしたいわけじゃない」

甘やかす…

「あの国は勇者召喚というカードを使った。それに胡坐をかいて自分たちが何もしないという道を選んだとしたらその結果は自己責任だ」

「つまりその状態の場所に助けに行く必要は無いってこと?国が潰れるかもしれなくても?」

「それも自然の摂理だろう?勇者がどうあれ自分達で自分たちの身を守ろうとする意志がないなら勝手に滅べばいい。その分別の国が頑張るだろうし新たに国が出来ることもあるだろう」

ちょっと冷たい気もするけどそういうものなんだろうか


「今ミリアがいる国、ソトニクスは勇者たちのいるフルジリアから対極に近い場所に位置する国だ。小さいがこの国だけで生きていけるだけのものが揃ってる国でもある」

それってノアの箱舟的なヤツなんじゃ…

「ソトニクスが無事であればこの世界は続いていくということだ。逆に言えばソトニクスだけは滅んでもらったら困る国でもある」

「神は愛し子を設けて直接関わるのに、その人のいる国が滅んでも構わないってこと?」

「そうならない方が望ましいがそこまで関与はしない。基本的にそこに住む者に全て任せているからな」

それはどこか達観した考え方に感じた

そういう意味では彼らは間違いなく人ではなく神なんだろう


「何となく納得いかない部分は有るけど…私が守るべき範囲は分かった。その時はまだ先だってことも」

「その時が来るかどうかもまだわからんがな」

「そう…だね」

僅かな寂しさを感じながらただ頷いた


「よし、そろそろ再開するか?」

切り替える様にカシオンが言った

「うん。お願い」

頷き私も立ち上がる

他の属性と比べて闇のイメージが固まらないのが原因だろうということで、カシオンは闇に関する物を色々と上げてくれた

可能な限り実物を見せてくれたのもあってようやく闇のイメージができるようになったのは日が沈み始めた頃だった


「ごめんね。なかなかうまくいかなくて」

他の属性が1度見ただけで出来たこと自体が異常なのは分かってるけど、それでもやっぱり凹む

「気にするな。これでも充分早い」

苦笑しながら言うカシオンは当然の様に夕食をリクエストしてきた

1人で食べる食事よりよっぽどいいから快諾して昨日とは違う楽しい食事を堪能した

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