第8話 食事

「寝る場所が確保出来たら急にお腹がすいてきたわ」

「安心したんでしょうね」

キュリーがコロコロ笑いながら言う


「そう言えば神様って食事は?」

「基本的には必要としないな」

「基本的には?」

「嗜好品として口にすることは有るが取らなくても死なん」

なるほど

経済的な肉体らしい


「でも地球の食事は興味あるのよね」

「…」

「だからできればお願いしたいなぁ」

ジュノーとメルテルの懇願するような目に勝てる気がしない

「誰かに教わったわけじゃないから味の保証はないから」

両親を亡くしてから一人暮らしだ

その前から食事は自分で作ってたけど全部自己流

誰かに食べさせたこともない

「心配ない。調理と味覚の特性はマックスレベルだ」

カンバルが言う

そう言えばそんな特性があった気がする


「人が多いから大皿で勝手に取り分けてもらった方が早いか」

そう思いながらサラダとスープ、鶏と茄子の香草焼き、3種類のパスタを用意した

「やっぱりおかしい」

「何が?」

「使っても元に戻るんだけど」

そう、食材全て、使った直後から復活していくことに気付いた

オリーブオイルですらフライパンに入れた次の瞬間、瓶の中の残量が目に見えて増えていく

5玉あった玉ねぎの1玉を取り出したのに、次に見た時には5玉に戻ってるという怪奇現象があらゆる食材と調味料で見られた


「良かったじゃないか」

「え…」

「飢え死にしない」

ドイセンがサムズアップしながら言う

それは神もする仕草だったのね

確かに飢え死には免れる気がする

「ま、神々のギフトと思っときゃいい」

カシオンはこういうとどめを刺すような言葉が多い気がする

まぁいいんだけど


「とりあえず出来たよ」

リビングのテーブルに運ぶと感嘆の声

「この取り皿に欲しいだけ取り分けながら食べて」

スープと共に取り皿を配っていくとドイセンが真っ先に食べ始めた

大きな体でどっしり構えた親父って感じのドイセンは、見た目を裏切らず大量に食べた

嗜好品って言ってたのにそんなに食べる必要ある?


それにしても…

「特性の力ってすごい」

自分で食べて心底そう思う

だって私ここまで美味しいの作ったことないし


「良かったわね。この世界でいい男をつかまえるには胃袋を掴むのが一番効率がいいのよ」

メルテルがニコニコしながら言う

「恋愛の前にこの世界に慣れないといけないと思うけど」

「あら、恋人が出来たら嫌でもこの世界に慣れるんじゃない?」

ジュノーが香草焼きを頬張りながら言う

何それ、”鶏が先か卵が先か”みたいな言い方しないで欲しいんだけど…

「ミリアにはこの世界で幸せになって欲しいわ。そのための協力は惜しまないわよ?」

「なんならお勧めの男をピックアップするか?」

「やめて。それあんた達にされたら強制じゃない」

そりゃ知らない世界で頼れる人がいれば心強いだろうけど…

「ならきっかけぐらいは用意してやる」

「そうね。それなら強制じゃないものね」

「楽しみになってきた」

カシオンの言葉に皆ノリノリで反対するのも疲れたので諦めた

まぁでも、異世界生活初日、みんなのお陰で考え込む間もなく済んでよかったのかもしれない

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