第9話
近田 1人殺害
透明人間の生活はなかなか楽しい。近田は伊藤麟太郎が誰に殺されるのか?今すぐ知りたかった。サスペンスドラマの予告を見てるようなワクワク感があった。
6月7日
麟太郎は室町大学近くのアパートに1人で住んでいた。大阪出身で、父親から仕送りをもらってるようだ。彼は朝、起きるといきなりダーツの矢を壁に向かって投げてきた。透明の近田は麟太郎からは見えないから、もう少しで近田に刺さりそうになった。壁には湯川のスナップ写真が貼ってあった。
彼は湯川教授に強い殺意を抱いているようだ。
それにしても借りてる家にこんなことしたら出るとき金がかかるだろうな?
アパートのある吉田は、左京区の南部に位置し、吉田山(神楽岡)を中心とする丘陵部、およびその西側の台地一帯からなる。北は今出川通を挟んで田中・北白川、東は浄土寺・黒谷町(金戒光明寺(黒谷寺))、南は岡崎・聖護院、西は鴨川を挟んで上京区に接する。境域はかつての京都府愛宕郡吉田村(郡区町村編制法による)、および京都市編入(1889年)後の上京区吉田町の村域にほぼ相当する。この境域のかなりの部分が吉田神社を中心とした吉田山の緑地、および室町大学吉田キャンパスが占めていることから、住宅地であると同時に、学生向けの定食屋・喫茶店などが多く立地する学生街としての性格も併せ持っている。
麟太郎の朝ご飯はコンビニで買ったタマゴサンドイッチとクノールカップスープ、パックの野菜ジュース、タピオカミルクティーだ。彼がトイレに行ってる間に、まだ手を付けてないカップスープを飲んだ。
「うん、いい味してる」
水が流れる音がしたから慌ててマグカップをテーブルに置いて、彼のベッドに腰掛けた。
彼は手も洗わずに食べかけのサンドイッチを口に入れ、目を細めた。
「何か少なくなってる気が……気のせいかな?」
朝食を終え、身支度をして麟太郎はアパートを出ると、マウンテンバイクに跨り大学に向かった。走って彼の後を追ったが、見失ってしまった。まあいい、麟太郎の死亡日は6月15日だ。それまでは周辺を散策したりしよう。
大学の周辺には史跡がたくさんあった。
村上天皇中宮安子火葬墓(泉殿町)、慶頼王墓(牛ノ宮町):醍醐天皇の皇太子保明親王の子で親王没後に皇太孫に立てられたが5歳で死去した。
後一条天皇陵墓(菩提樹院陵 / 神楽岡町)や
吉田泉殿址(泉殿町)などがある。吉田泉殿址は13世紀、西園寺公経(百人一首の「入道前太政大臣」)が建設した別荘の址で町名の由来となった。百万遍交差点西南角に跡地を示す石碑が建てられている。
近田は腹が減ってうどん屋に入った。カップルのすぐ近くに座った。今どき珍しいソバージュヘアの若い女性の隣に座り、彼女のオッパイを触った。Bカップだと近田は推測した。
「アンッ」と女性が艶っぽい声を出したので彼氏は「どうしたんだ?」と驚いてる。
「何か胸が気持ちいい」
「この店には変態な幽霊でもいるのか?」
彼女はたぬきうどん、彼氏は天ぷらうどんを頼んだ。食事が来る間、カップルは怖い話をしている。
「おまえ、化野病院って知ってる?」
「知らない。てかさ~? おまえってのやめてよ。名前で呼んで?」
彼氏の話では恐ろしい形相をした看護師が、夜の化野病院を台車を押しながら徘徊し、死期が迫った患者を見ると追い掛けてくるらしい。
追い掛けられた患者がトイレの一番奥の個室に逃げ込み、息を殺しているとゾンビ看護師がトイレに入ってきて、トイレのドアを一つずつ開けながら「ここにもいない…」と呟く。患者が「次は自分の個室だ」と思っていると、物音がしなくなる。夜が明け、安堵した患者がトイレの個室から出ようとするが扉が開かない。不審に思った患者が、ふと上を見るとゾンビ看護師がドアを押さえて上から覗いていた。患者はゾンビ看護師に一晩中、ドアの上から個室を覗かれていたのだ。それから間もなく、その患者は息を引き取ったらしい。
「やだ〜こわ~い」
「おまちどう様です」
ふくよかな女性の店員が頼んだものをテーブルの上に置いた。
近田はさつまの天ぷらを拝借した。
宙に浮いた天ぷらを見て彼女は気絶した。
6月8日
舞鶴市にある病院を近田は訪れた。今日は透明じゃない。肺炎で入院している祖父の見舞いに来ていた。コロナが蔓延してるのに面会できるってことは、少し歴史が変わったかも知れない。
マツダのデミオを快調に飛ばす。
真っ赤なボディなので偶然ラジオから流れてる山口百恵の『プレイバックPART2』に合わせて「緑の中を走り抜けてく真っ赤なデミオ」と替歌った。本当はポルシェなのだが……。
舞鶴市は、京都府の中丹地域に位置する市。
元来この地域は「田辺」と呼ばれていたが、明治時代に山城(現・京田辺市)や紀伊(現・和歌山県田辺市)にある同名の地名との重複を避けるため、田辺城の雅称である「舞鶴城」より「舞鶴」の名称が取られた。田辺城が「舞鶴城」の別名を得たのは、城型が南北に長く、東の白鳥峠から眺めるとあたかも鶴が舞っている姿のように見えるからであるとされている。
舞鶴市の周辺は丹波高地が広がり、代表する山岳には、福井県との県境部に位置する青葉山があり、「若狭富士」の異名をもつ。市域にはほかにも宇野ヶ岳、赤岩山など600メートル級の山々が連なっている。
市域の大半を山林地域が占めているが、1級河川の由良川や西舞鶴の高野川、伊佐津川、東舞鶴の与保呂川、志楽川流域などでは沖積地が発達している。
北は日本海の若狭湾に面し、その最も深く湾入したところが舞鶴湾である。リアス式海岸など景勝地に富んでおり、オオミズナギドリ繁殖地として国の天然記念物に指定されている冠島や沓島といった島々も舞鶴市に属している。
祖父から買い物を頼まれていたので、途中コンビニに寄り新聞を買った。病院に到着したのは午前11時過ぎ、祖母も来るはずだが姿が見えない。
ケータイに電話しようとしてると自動ドアが開き、祖母がやって来た。
「あら、
「おばあちゃん、元気だった?」
「私は元気だよ」
病室は2階の角部屋。祖父は近田の顔を見ると笑顔になった。
「警部補になったってお母さん、嬉しそうだったよ」
誤解のないように言っておくがお母さんは、祖母ではなく近田の母だ。
「ちゃんと療養してた?」
「さっすが、警部補さんは偉いんだな〜」
「おじいちゃんやめてよ〜」
祖父は祖母が持ってきたポロシャツが薄いと文句を言っていた。
「文句ばっかり言うならもう来なくていい?」
ギスギスした空気が嫌で早く帰りたかった。
祖父の着替えやトイレを手伝った。
中庭にやって来て景色を眺めた。パンジーやマーガレットが咲いている。風車がクルクル回っている。祖母と主治医から説明を聞いた。
『あまり時間が残されていません。もしものことを考えておいてください』
近田は幼い彼を肩車して花火を眺める祖父を思い出して涙を流した。
「僕が悪いことばかりするからだ……」
6月15日
麟太郎は恋人と彼のアパートで激しく交わっている。彼女は麟太郎と同じ天文サークルに所属してる。近田は窓辺に立って2人の遊戯を眺めていた。彼女はMっ気があるらしく、荒々しくされると目をトロンとさせて悦んでる。麟太郎が指マンすると愛液がトロ〜リ。彼女はヨダレを垂らして、亀頭からタマまで舐めまくっている。竿を喉奥まで咥え込む。
「もう、イキそう」
「まだ、ダ〜メ」
口から麟太郎のモノを出し、自ら持って挿入させて甘い喘ぎ声を漏らす。トロトロの割れ目を突きまくって、2人とも果てた。
エッチを終えて、麟太郎は彼女のアパートに車で送っていった。近田は後部席に乗り込んだ。
夜の街をドライブ。
「ねぇ?何か気配感じない?」
彼女は霊感が強いようだ。
「全然……」
ドライブ中、麟太郎はまた怪談を話していた。『さとるくん』って話だ。
さとるくんは電話で呼び出すことができ、さとるくんに質問すればどんなことでも答えてくれる。
流布している話の内容は、概ね以下のとおりである。
公衆電話に10円玉を入れて自分の携帯電話にかける。つながったら公衆電話の受話器から携帯電話に向けて「さとるくん、さとるくん、おいでください」と唱える。それから24時間以内にさとるくんから携帯電話に電話がかかってくる。電話に出ると、さとるくんから今いる位置を知らせてくれる。そんな電話が何度か続き、さとるくんがだんだん自分に近づき最後には自分の後ろに来る。このときにさとるくんはどんな質問にも答えてくれる。ただし、後ろを振り返ったりすると、さとるくんにどこかに連れ去られるという噂。今の所、異世界に連れて行かれる噂がある。
他にも既に答えがわかっている質問をしてしまうと、さとるくんが怒ってしまうという。怒ると、多くの場合殺されてしまうらしい。
彼女のアパートは四条河原町、鴨川の近くにある。到着時刻は午前2時だ。川沿いに車を駐めて、麟太郎は彼女はキチンと部屋まで送り届けた。
5分ほどで戻ってきた。
自分のアパートに戻り、麟太郎は唖然とした。鍵が開いていたのである。確かに閉めたはずだ。
侵入者がいるかも知れない。トイレや浴室を調べたが誰もいなかった。一安心して風呂に入り、歯を磨いて就寝した。海で泳いでいる夢を見ていると、体がズシッと重くなった。
何者かが馬乗りになって麟太郎の首を両手で絞め、麟太郎を殺害。その様子を近田はソファで見ていた。殺人犯はアパートの管理人、
財津は室内にカーペット・ビニールシートなどを敷き、部屋にあったのこぎり・包丁などで麟太郎の遺体をバラバラに切断した。
「クレームばっかり入れやがってうぜーんだよ。足音くらいで一々呼び出しやがって……」
財津はクレーゼットの中に隠れていたのだ。
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