第7話 言ってはいけない

 冬馬と光が結ばれたことを、凪子は心から喜んだ。香苗も同様で、二人で彼らを応援しよう、と盛り上がった。

「凪子は寂しくないの?」

 親友を兄に取られたのだから、と、香苗は気にしたが、

「寂しくはないよ」

 と凪子は答えた。光は親友だ、光の幸せは私の幸せ、そう思っていた。

 バイト先で見つめ合う冬馬と光が微笑ましく、二人の部屋には、あまり行かないようにした、お邪魔虫なのだから。


 高校三年の夏休み前、凪子はバイトを辞めた。本格的に受験勉強を始めるためだ。専門学校に進む光と違い、凪子は国公立大学以外に選択の余地はない、少しでも学費を浮かせたい、奨学金も受けたい。塾に行く余裕などないから、凪子は勉学に打ち込んだ。

 翌春。

 努力の甲斐あって、凪子は冬馬と同じY国立大学に現役合格を果たした、それも難関の法学部だ。

 夏が来て、久々に冬馬の父の別荘に行くと、冬馬の両親は凪子をほめたたえた。独学で難関に合格とは大したものだ、と。

 受験から解放され、凪子は再び、冬馬の部屋に出入りするようになった。

 三人でつるんでいるときが言葉に出来ないほど楽しくて、

「いつまでも三人でいたいね」

 が彼らの口癖だった。

 同じ大学なので、凪子はたまに冬馬の車でキャンパスに行くことがあった。隣には冬馬がいる。車内での時間が凪子には特別に思われた。


 二年が過ぎ、冬馬は大学四年、二十二歳。光と凪子は、共に二十歳を迎えていた。

 翌年には冬馬は卒業し、父の会社に入る。そうなっても今のマンションから通勤する、何も心配するな、と光には伝えてあった。

 光は、友人とルームシェアしていると実家に伝えている。特に詮索されることもなく、IT関連の専門学校で充実した時間を過ごしていた。


 その年のクリスマス。

 冬馬は実家に一泊し、香苗と一緒に戻り四人でクリスマスを祝う予定だったが、やけに帰りが遅い。

 部屋にはミニツリー。

 ケーキもチキンもスパークリングワインも、準備はできているのに。

 どうしたんだろう、まさか事故?

 光と凪子が不安になる頃、やっと兄妹は姿を見せた。

 部屋に入ってくるなり、香苗は怒りをぶちまけた。

「パパがあんなに頑固だなんて。ママはおろおろするだけだし」

 冬馬は下を向いたままだ。

 事情を聞いて、光と凪子は絶句した。

 冬馬の父が、息子たちの関係を知ってしまったのだ。


「大体お兄ちゃんが悪いのよ、『凪子ちゃんとうまくいってるのか』と訊かれたら、うん、まあね、って言っとけばいいのよ」

 冬馬は、俺が付き合ってるのは凪子じゃなく光の方、と馬鹿正直に答えてしまった。

「なんつうか、早くラクになりたくて」

 言訳にもならないことを、冬馬はもごもご言う。

「お兄ちゃんは、それでスッキリしたかもしれないけど」

「ごめん」

 今頃になって、冬馬は事態の重さに思い至ったようだ。


 男と付き合うなんてとんでもない、すぐに別れろ、と一喝され、冬馬は窮地に追い込まれた。もちろん光にとっても大ピンチだ、ずっと冬馬と暮らしていくつもりなのに。


【あとがき】


 冬馬(ドラマでは永慈)は、このように、わざわざ父親に白状してしまいました。

 せめて卒業までシラを切り、光との暮らしを守っていたら、あんな結末にはならなかったでしょうに。

 まあ、あのバッドエンドに導くためには仕方ない展開なんでしょうね、ああ腹が立つ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る