第3話 いちばん気になる


 冬馬は父の意向でY国大の経営学部を受験、一浪して、なんとか合格した。

 父は喜んで新車を買ってくれた上に、Y市内のマンションに冬馬を住まわせた。実家は隣町。浪人生活から解放され、冬馬は髪を金髪に染め、遊びまくった。

 経営学なんて全く興味がない、将来、家業の不動産業を継ぐために仕方なく専攻したのだ。

 バイトだけはまじめにやった、一年の時から同じスパゲティ屋で働き、店主に信頼されている。


 冬馬が光と出会ったのは大学二年、二十歳の初夏だった。男女二人の高校生バイトの片方。女の子は凪子といった。

 はじめて見たときから、冬馬は光が気になった。子犬みたいな濡れた瞳、かわいいなあと思い、いつの間にか目で追うようになった。

 凪子と仲がいいのが気になり、休憩時間に訊いてみた。

「付き合ってるの?」

 光は大きな目をさらに見開き、

「凪子は親友だよ」

 冬馬の懸念はあっさり解消された。中学も同じだが、顔見知り程度。親しくなったのは高校に入り一年二年と同じクラスになってから。

「さっぱりしてて面白いヤツだよ、すげえしっかりしてるし」

「ふうん」

「凪子の父さん、子供の頃に死んだって。心臓麻痺でいきなり」

 光は表情を曇らせた。

「ショックだよな、親が小さい時にいなくなるなんて」


 ある日、冬馬は思い切って光に告白した。

「俺、バイかもしれない、つーか、多分そう」

 言ってしまってから、焦った。いきなりこんなこと言って、ヘンな奴だと思われそう。だが、きちんと伝えておきたい。

 女子とも付き合ったけど、気になる男子も何人かいた、それは事実だ。

 男と女はそれぞれ違う魅力がある。両方に惹かれてしまうなんて、と悩んだこともあった。

「バイだっていうと節操なしみたいだけど」

 男の子をこんなに好きになったのは初めてだ。

 冬馬は慎重に言葉を選びながら続けた。

「好きな人は、いつも一人だよ。いまは光のことが、いちばん気になる」

「なんで俺?」

「ワンコみたいでかわいい」

 光は、ふっと小さく笑い、

「なら、犬を飼えば?」

 話はそこで終わってしまった。


 冬馬は光、凪子の両方と、さらに親しくなった。店の夏季休暇に、別荘に連れていく約束をした。

 先輩の車でドライブ、別荘訪問、二人にとってはもちろん初体験だ。

「この車、なんていうの?」

「ランドクルーザー」

「すっげえ高そう」

「冬馬ん家、リッチだもんね」

 凪子と光は大はしゃぎだ。

 湖のほとりの別荘には冬馬の両親、親族に友人が集まって賑やかだった。

 冬馬の妹の香苗に二人は初めて会った。同じ学年で、実家に近い女子高に通っていた。香苗はたちまち二人と仲良くなった。


 別荘で、冬馬と光は同じ部屋で寝た。

 シングルベッドがふたつ、離れているとはいえ、冬馬はドキドキした。

 灯りを消してから、光は、

「俺、女子と付き合うの興味ないんだ。教室なんかでわいわいやってるだけでいい」

「うん」

「でも、冬馬と付き合うのは興味ある」

 犬を飼えよ、と言われておしまい、ではなかった。前向き発言?

「今度、遊びに連れてって」

「うん」

 光とデート、できるんだ。

 胸の鼓動が高鳴り、光に気づかれるのでは、と心配になったが、光は大きくあくびして、すぐに寝入ってしまった。



【あとがき】


 ドラマへの意見で「永慈はバイではないのか」とあり、私も同感です。自称ゲイなのに、あっさり美枝子と関係して子供を作ってしまうし、心も彼女に移っていったような。なので私は、永慈に該当する冬馬は、はっきりバイとして書いていきます。


 ゲイといっても様々、全く女性を受け付けない人から普通に女性と出来る人まで無限のグラデーションがありそう。セクシュアリティは一人ひとり違うのかもしれません。

 女性に愛情を抱かないけどセックスは平気、という人をバイと呼ぶのは悲しいです、多情と言われても、愛を持って男女両方に接してほしい。そんな思いをこめての、冬馬の設定です。

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