怪の雑多煮

遊安

お姉ちゃん思い



キーボードを叩く音があちこちで聞こえる昼間。

一本の電話がかかってきた。


たまたま手が空いていたのは上司で

「お電話ありがとうございます。」と外線に出た。


「え?ええ、はい。この会社の課長を務めていますので…。

 …え?もう一度…。

 …うん、うん。そうなの、ね。

 お姉ちゃん風邪引いてたもんね。分かった。

 じゃ、切るね。ね。はい、電話ありがとう。」


電話を切るなり、顔が真っ青になった上司が言った。


「A子さんって一人暮らしだったよな!?」

「え、はい。そう聞いてますけど。」

「誰か家知ってるやついないか!?」


烈火のような気迫にみんな手をとめ、

家を知っているB美さんが上司とA子の家に行くことになった。


元々風邪気味で休んでいたA子さんだったが、

数日前から意識を失い、脱水症状を起こしていたらしい。


上司が行ってなければ死んでいた可能性もあるとか。


みんな助かってよかったと言い合ったのだが…


これは後日、上司から聞いた話。





突然かかってきた電話に出ると聞き慣れない声がした。


「お電話ありがとうございます。」

『もしもしぃ?おじさん偉い人?』

「え?ええ、はい。この会社の課長を務めていますので…。」

『A子ちゃんね、しんじゃったよ。』

 「…え?もう一度…。」

『A子ちゃんね、動かないの。

 わたし、A子の妹。お願い、来て。』

「…うん、うん。そうなの、ね。

 お姉ちゃん風邪引いてたもんね。分かった。

 じゃ、切るね。ね。はい、電話ありがとう。」



話しながらずっと、上司は違和感があった。

A子は一人暮らしで、兄弟は弟のみ。

しかも遠方にいるという話だったからだ。


しかも、もっとゾッとしたことがある。



「妹と名乗るその声、

 明らかに男の低い声だったんだ。

 それが作ったかのような舌っ足らずな感じで

 話してるんだ。」



これは何か事件だと思ってA子の家に行ったが、

そこにいたのは倒れたA子のみで、それ以外誰もいなかったという。



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