02 ボイオティア同盟
スパルタは盟に従い、ペロピダスら神聖隊を救った。
だがペロピダスはスパルタの都合の良い「テーバイの僭主」になることを拒否。
怒ったスパルタはペロピダスら有力貴族層をテーバイから追放し、そしてテーバイを占領した。
「馬脚を
そう述懐したエパメイノンダス自身は、寒門出身であるという理由で、追放を免れていた。
「存外、スパルタというところは甘い……というか、いい加減か」
ギリシア全体の支配に汲々とするあまり、この手の細やかな人事に注意が向いていない。
あるいは、貧乏貴族の出身だからこそ、「スパルタのおかげで、お前は支配する側に回れた」と思わせている……ということか。
「いずれにせよ、ペロピダスに愛の色を教えねばならないんでね。このままで終わるつもりはないさ」
あの時。
マンティネイアからの敗走の時。
エパメイノンダスは負傷中のペロピダスに、「愛の色を教えて?」と言われた。
そう問われてエパメイノンダスは、恋人であるペロピダスを励ますため、これから見せる景色がそれだと答えた。
だが、そう答えたものの、その後スパルタに連行される同然の扱いでテーバイへ戻ったため、「景色」といえるものは何も見せていない。
エパメイノンダスは肩をすくめた。
かつての――ペロピダスのように。
「実際、
ペロピダスはスパルタの手によって追放されたが、その追放先にアテナイを選んだ。
アテナイはスパルタに押されているものの、まだまだスパルタの敵国として、潜在的な力を持っていた。
「この際、アテナイの――スパルタをどうにかしたい、という欲求を利用させてもらおう」
ペロピダスは満面の笑みでそう言っていた。
……こうしてエパメイノンダスがテーバイに居座って、アテナイのペロピダスと連絡を取り合い、機を見てテーバイからスパルタの勢力を追い払った。
「諸君。スパルタに――ペロポネソス同盟に抗するには、こちらもまた同盟をもってせねばなるまい」
テーバイの政権を奪取したペロピダスがまずやったことは、テーバイを中心とする
スパルタ率いるペロポネソス同盟の支配に真っ向から逆らうボイオティア同盟の結成。
これに当然ながら、スパルタから抗議の声が上がった。
「ギリシアの地は、このスパルタのペロポネソス同盟が守る。しかるに、ボイオティア同盟とは何ごとか。テーバイは、ギリシアの平和を乱そうというのか」
とは、スパルタの言い分であるが、ペロピダスは素知らぬ顔で、亡命していたアテナイとの同盟に腐心する。
「許せん。とにかく、ボイオティア同盟を解散せよ。この同盟は、アンダルキダスの和約に反する。ペルシアの介入を招いてよいのか」
とうとう、スパルタ王からの最後通告に等しい通達があった。
アンダルキダスの和約とは、アケネメス朝ペルシアのアルタクセルクセス二世(大王)と、スパルタの外交官にして将軍・アンダルキダスとの間で結ばれた講和条約である。
この条約に曰く、ペルシアはアジアを領有する。ギリシアは――ギリシア諸都市は独立を守る。そういう和約であったが、解釈のしようによっては、この条約は、いわゆる「同盟」という外交関係を認めず、あくまでも個々の都市の独立を保つべし、と規定しているように思われた。
ちなみに、この和約が守られない場合は、ペルシアはその
「そういわれてみれば、そうだ」
これにアテナイが反応してしまう。
アテナイはペルシアとの因縁がある。
かつて、ペルシア戦争でアテナイは諸都市を率いてペルシアと戦い、勝ったことがある。しかし、その後のペロポネソス戦争を経てアテナイは衰退し、今はどちらかというとペルシアは忌避すべき相手という認識だった。
「これ以上の争いは無益である。アテナイはテーバイとは距離を置く」
これに便乗して、スパルタはテーバイとの講和会議での席上で、テーバイにボイオティアの各
だが当時のテーバイ代表であるエパメイノンダスはそれを突っぱねる。その突っぱねた相手、つまりスパルタ代表はアゲラシオス二世といって、スパルタにいる二人の王のうちの一人だった(スパルタは初代の王が双子であったため、二人王制を取っていた)。
「もはやこれまで。テーバイ、膺懲すべし」
アゲラシオス二世はペロポネソス同盟の兵を召集、テーバイ率いるボイオティア同盟軍を攻撃したものの、病により休養を余儀なくされ、テーバイ戦の指揮は、当時のもう一人の王、クレオンブロトス一世に託された。
クレオンブロトス一世はスパルタ重装歩兵七百名を中心とする、実に一万一千名を数える大軍で
クレオンブロトス一世は、狡猾にもエパメイノンダス率いるテーバイ主力をやり過ごし、一方でカイレアスという将軍の率いるテーバイ軍を撃破し、次いでクレシウスという地を攻略して、テーバイの三段櫂船を十二隻強奪した。
「これならいいだろう。テーバイを直接叩いてやる」
クレオンブロトスはテーバイ近郊まで進出する。
その地の名を、レウクトラと言った。
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